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「人が定着する組織」は、対話でつくれる。toHANAS(とはなす)が描く成長戦略

とはなす株式会社 下平 光明

医療・介護業界では人材不足が課題とされる一方、「採用しても辞めてしまう」状況が繰り返されています。その背景には、スキルや意欲だけでなく、「話したいことを話せない」「相談できる場がない」といった対話の不足があります。

toHANAS(とはなす)は、こうした課題に対し、対話を個人任せにせず、仕組みとして実装することに取り組んできました。約140問の診断とキャリアコンサルタントによる面談を通じて、働く人のコンディションを可視化し、組織改善へとつなげています。

同社は医療・介護業界の人材紹介に15年以上携わった経験をもとに、2021年に「きゃりこん.com」として創業。
県の支援事業「かながわ・スタートアップ・アクセラレーションプログラム(KSAP)」や「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」に採択され実証を重ね、2025年12月に「とはなす株式会社」へ社名変更しました。

インタビューでは、サービスの特徴・創業の経緯からKSAP・BAKを成長戦略として活用し、事業を発展させてきたプロセスに迫ります。

toHANAS(とはなす)は、どのような価値を提供するサービスですか?

toHANAS(とはなす)は、医療・介護現場で働く人の“コンディション”を起点に、職員と組織をつなぎ直すための仕組みです。
単なるメンタルケアや満足度調査ではなく、働く人一人ひとりの状態と、組織としての課題構造を同時に捉えることを目的としています。

具体的には、約140問のオンライン診断と、国家資格キャリアコンサルタントによる1対1のオンライン面談を組み合わせています。
診断によって“今の自分”を可視化、面談を通じて言語化し、その背景や文脈を整理する。
その過程で生まれる「気づき」を、個人だけで終わらせず、匿名化したうえで組織へと還元していきます。

一つひとつは小さな気づきでも、それが積み重なれば、やがて組織全体の働きやすさの基盤になります。
toHANASは、その最初の一歩、「きっかけのきっかけ」をつくるところから、組織に伴走するサービスです。

なぜ、この領域で事業を立ち上げたのでしょうか?

背景には、私自身が医療・介護業界の人材紹介に15年以上携わってきた経験があります。
現場と経営、求職者と組織、その間に立つ中で、何度も同じ光景を見てきました。

採用には多くの時間とコストがかかっているにもかかわらず、
・話せない
・相談できない
・我慢を続けて、ある日突然辞めてしまう

こうしたケースが後を絶たない。
これは個人の忍耐や適性の問題ではなく、職場の構造そのものの問題だと感じるようになりました。

採用を続けるだけでは、問題は繰り返される。
本当に必要なのは、「辞めない人を採ること」ではなく、「働き続けたいと思う職場をつくること」。
そう考え、2021年に「きゃりこん.com(現・とはなす株式会社)」を立ち上げました。

事業初期にKSAPを選んだ理由は何だったのでしょうか?

事業を立ち上げた当初は、正直なところ、
「これは本当に現場で受け入れられるのか」
「社会的意義だけで終わらないか」
という不安もありました。

だからこそ最初に必要だったのは、
第三者の目で価値を検証すること
そして公的な信頼性を伴った実証でした。

その条件を満たしていたのが
かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)です。

KSAPは、単なる資金支援ではなく、
「実証を通じて社会課題解決型の事業を育てる」設計になっている。
この点が、toHANASのフェーズと非常に合っていました。

KSAPでは、どのような検証を行ったのでしょうか?

KSAPでは、神奈川県内の介護施設1拠点を舞台に、toHANASの初期モデルを実証しました。
職員の方々に、約140問のコンディション診断とオンライン面談を実施し、
個人の状態と組織の傾向を丁寧に整理していきました。

この実証で強く印象に残ったのは、
経営層が把握している課題と、現場が感じている課題が大きくズレていたことです。

現場では「話せない」「相談できない」ことがストレスになっている一方、
経営側は別の要因を想定している。
このズレが、構造として見えたこと自体が、大きな成果でした。

KSAP後、どのように成長戦略を描いたのでしょうか?

KSAPが終わった段階で、私たちの中では次の一手が明確になっていました。

それは、
「一施設でうまくいく」から
「どこでも再現できる」に進むことです。

KSAPは仮説検証のフェーズ。
次に必要なのは、規模を広げても同じ効果が出るかどうかの検証でした。
そこで描いたのが、
KSAP → BAK → 社会実装
という三段階の成長戦略です。

BAKでは、どのような成長検証を行いましたか?

次のステージとして挑戦したのが
ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)です。

BAKでは、KSAPよりも対象を広げ、
複数の介護施設・また400名規模の医療施設の職員さんを対象にtoHANASを導入しました。

ここでの狙いは、
施設が変わっても、規模が大きくなっても、同じ価値を出せるか
つまり、事業としての“再現性”を証明することでした。

BAKでは、どのような成長検証を行いましたか?

※「エール“ガバメント×ベンチャー”アライアンスかながわ(YAK)」は自治体とベンチャー企業の共創を支援する取組

BAK実証で得られた成果を教えてください。

結果は、非常に明確でした。

導入前の5か月間では33名が離職していたのに対し、
導入後の5か月間では離職者は3名にまで減少しました。

これは偶然ではなく、
toHANASによって「話せる構造」がつくられた結果だと考えています。

BAKという公的な枠組みの中で得られたこの数字は、
その後の営業や連携、成長戦略を語るうえでの、強力な根拠になりました。

KSAP・BAKを通じて見えた、toHANASの成長の軸は何ですか?

KSAPとBAKを通じて明確になったのは、
toHANASの成長は「共感」だけではなく、データと構造で語れるという点です。

・離職
・働きやすさ
・自己効力感

こうした経営に直結する指標と結びつけられることで、
toHANASは“気持ちの良い取り組み”ではなく、
組織改善の手段として選ばれるサービスになり得ると確信しました。

KSAP・BAKでの実証を振り返り、制度活用でアドバイスはありますか?

一番お伝えしたいのは、KSAPやBAKを「支援制度」としてではなく、「成長戦略の一部」として捉えることです。

採択されること自体がゴールになってしまうと、その先につながりません。私たちは最初から、「KSAPで何を検証し、BAKで何を証明し、その次にどこへ進むのか」を逆算して考えていました。

私たちにとってKSAPは、事業の社会性や現場適合性を試す場。一方でBAKは、複数拠点・複数施設でも同じ価値を出せるかという再現性を証明する場でした。この役割を意識したうえで、実証設計や取得するデータを決めていました。

また、実証は「やって終わり」では意味がありません。

誰に見せるデータなのか、どの数字が次の信頼につながるのか、次は誰と組みたいのか。そこまで考えたうえで制度を使うと、KSAP・BAKは事業の見え方を一段引き上げてくれる非常に強力な装置になります。

最後に大切なのは、制度に事業を合わせすぎないことです。

自分たちの描く成長ストーリーが先にあり、その途中に制度がある。その順番を守れれば、神奈川県のプログラムは事業成長の大きなサポートになると思います。

今後の展望を教えてください。

今後は、医療・介護領域での横展開を進めながら、
「個人 → 組織 → 地域」へとスケールしていきます。

KSAP・BAKで得た知見は、
施設単位だけでなく、法人単位、さらには地域単位での活用にも応用できると考えています。

将来的には、健全な働く環境つくりに向けて「toHANAS」を社会のインフラとして実装するこが目標です。

企業情報

とはなす株式会社

とはなす株式会社

【事業内容】

  • オンライン面談サービス「toHANAS」の運営

【企業サイト】
https://tohanas.jp/

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