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市民の声を政策につなぐ。Liquitousが拓くデジタル民主主義

株式会社Liquitous 栗本 拓幸

行政における市民参加や合意形成は、長年にわたり「重要だが難しいテーマ」とされてきました。ワークショップやパブリックコメントといった手法は存在するものの、参加者が限られ、声が政策にどう反映されたのかが見えにくい。結果として、「参加した実感が持てない」「行政も活かしきれない」という構造的な課題が残り続けています。

こうした中、テクノロジーを用いて市民の声を可視化し、政策形成につなげる取り組みが国内外で広がり始めています。そして、日本における代表的なプレイヤーが、Liquitous(リキタス)です。神奈川県鎌倉市での導入を皮切りに、現在では国内外100以上の自治体・組織で活用が進んでいます。

本インタビューでは、Liquitous代表の栗本 拓幸氏に、事業の本質、国内外での展開、神奈川県で起業した背景、そして「デジタル民主主義」を社会に実装していくための成長戦略について話を伺いました。単なるプロダクト紹介ではなく、制度・文化・実装までを見据えた挑戦の全体像に迫ります。

Liquitousが提供するサービスについて教えてください。

Liquitousは、「市民の声を効果的・効率的に収集し、政策に反映するための仕組み」を提供しています。
単に意見を投稿して終わるのではなく、誰のどんな意見が、どの論点に紐づき、最終的にどう扱われたのか。そのプロセス全体を可視化することを重視しています。

その中核となるのが、市民参加型合意形成プラットフォーム「Liqlid(リクリッド)」です。
Liqlidは、「じっくり話して、しっかり決める」というコンセプトのもと開発されました。行政から市民への情報提供、市民による意見表明、さらに市民と行政が施策案をブラッシュアップしていく関与・共創のプロセスを、一気通貫で実現するWeb上の仕組みです。さらには、Liqlidで集めた以外の市民の声データも蓄積できる「データベース機能」や、Liqlidで集めた声もそれ以外の手法で集めた声も経年で比較・分析できる「統合的な分析機能」も内包するなど市民の参加の間口を広げ、多様な意見を受容しつつ、プロセスへの参加の公平性と、議論や意思決定の透明性を担保する。Liqlidは、市民参画を「それぞれの課ごとに取り組む個別の営み」ではなく、「全庁的に標準化されたプロセス」として成立させることを目指しています。 

単にベンダーとしてシステムを提供しているのではありません。市民参画プロセスを実施するための庁内の機運醸成、個別案件ごとのLiqlid活用支援をもとにした市民参画プロセスの企画設計・実施支援、プロセスや組織のアセスメント(効果測定)を通して、より分厚く市民と行政のコミュニケーションを図れる環境をつくるサポートを行っています。

創業やサービス立ち上げまでの経緯を教えてください。

この構想自体は、2018年頃からありました。ただ当時は、「日本では成立しない」「行政は変わらない」と言われ、当時応募した県の起業支援プログラムにも何度も落選し、時機を待つ期間が続きました。2019年の統一地方選・参院選を経て、改めて起業する気持ちを固めました。転機は起業直後のコロナ禍です。行政のデジタル化やDX、そして市民参画の重要性が認識されるようになり、「日本初の『デジタル民主主義』実装プレイヤー」として声がかかるようになりました。

最初は真剣に取り合われなかった構想が、社会の状況変化とともに現実味を帯び、その流れの中で、再びベンチャー支援拠点「SHINみなとみらいなどの神奈川県のプログラムにも採択され、事業が本格的に立ち上がっていきました。

初期フェーズでは、どのような不安や課題がありましたか?

最大の不安は、「本当に使われるのか」という点です。
理念や理想は語れても、行政の現場で継続的に使われなければ意味がありません。

また、参加型民主主義というテーマは、どうしても抽象論に陥りやすい。技術論や理想論だけでは、現場は動かないという危機感がありました。だからこそ、最初から「制度や業務にどう組み込めるか」という実装視点を重視してきました。

神奈川県内でも活躍されていますね。鎌倉市でのLiqlidの導入は、どのような意味を持っていたのでしょうか?

鎌倉市は、Liquitousにとって最初の大きな導入事例です。
現在では4年目に入り、特定の部署に留まらず、全庁的な仕組みとして定着しています。

ただし、「一度自走したら終わり」ではありません。行政は人事異動があり、担当者が変われば、また説明と設計が必要になります。その繰り返しの中で、ツールそのものの使い方のみならず「制度運用の理念」や「制度や仕組みとしての進め方」も共有しながら、取り組みを進めてきました。

導入が広がった理由を、どう捉えていますか?

現在、国内外で100以上の導入があります。その中では、自治体に入っているコンサルタントや支援事業者が、Liquitousを選択し、個別の取り組みごとに、Liqlidを活用していくケースも多いです。

一方で、前例のない、いわば「突き抜ける」取り組みや、定型化できないプロジェクトについては、今も自社が深く関与しています。鎌倉、京都、インドネシアなどにおけるプロジェクトはその代表例です。

他社と協働する「横展開的な取り組み」と弊社の直接参画による「突き抜ける要素を持った取り組み」。この役割分担が、結果的にスケールを生んでいると考えています。

海外展開は、どのような戦略で進めているのでしょうか?

海外展開は明確な戦略として進めています。
目標は、2030年までに東南アジアにおける市民参画プラットフォームで最大のシェアを取ることです。

インドネシアでは、ODA*1の案件をきっかけに内務省国家戦略庁や中部ジャワ州ペカロンガン市で取り組みが進み、現在は現地法人とのパートナーシップ契約によって、官公庁・自治体への展開が加速しています。
今後はそのほかの東南アジア諸国などでも展開予定で、国際機関等との連携も進んでいます。

単なる海外進出ではなく、「デジタルを用いた市民参画プロセス」そのものを展開する意識を持っています。

写真はインドネシア共和国ペカロンガン市にて、市民参加型の行政事業レビューの様子

*1:「Official Development Assistance(政府開発援助)」に基づき、日本政府が開発途上国の経済・社会開発を支援するために実施するプロジェクト

技術開発面では、どのような取り組みを行っていますか?

社内にインハウスのエンジニア・デザイナーがいますので、リアルタイムで機能やUI/UXの改善や更新に取り組んでいます。

加えて、現在注力しているのが、民主主義を深化させるための技術の開発です。
SNSの分極化やフィルターバブルが問題視される中で、「多様な視点に触れられる設計」をどう作るか、そして突発的な言語表現によらず、個人の考えを表現できる仕組みとは何かを、日系IT大手や日系大手シンクタンク等と個別に共同で研究しています。

いずれにせよ、民主主義の深化という目的に照らして、技術を最大限活用するという発想で取り組みを進めています。

神奈川県を拠点に活動を続けている理由を教えてください。

神奈川県で事業を続けている理由の一つは、起業した初期に、県のベンチャー支援拠点「SHINみなとみらいの利用を開始してベンチャーコミュニティに参加し、鎌倉市をはじめ、県内の基礎自治体の現場で信頼関係を築ける担当者の方々と出会えたことです。制度や仕組み以上に、対話を重ねながら一緒に考えていける関係性が、事業を進める上で大きな支えになっています。

もちろん事業成長という観点では、首都圏の他の都県にさまざまな選択肢があることは紛れもない事実です。だからこそ、神奈川県がこれまで培ってきたコミュニティの強さに加え、事業を継続的に育てていける環境や仕組みがさらに整っていくことで、より多くのスタートアップが長期的に根付いていくのではないかと感じています。

起業を考える人へのメッセージをお願いします。

起業は、想像以上に重たい選択です。
自分の意思決定が、仲間の人生に直結する。その覚悟の重さを感じる日々です。

ただ、それでも「一人では解けない問い」に向き合いたいなら、起業ほど強力な手段はありません。
概念を作り、サービスとして実装し、社会に根付かせる。これは起業家にしかできない役割です。

最初は誰にも理解されなくても、続けていれば社会の側が追いつく瞬間が来る。そのことを、身をもって実感しています。

今後、Liquitousが目指す社会実装の姿とは?

目指しているのは、単なるサービスの普及ではありません。市民参画が「個々に行われる特殊な取り組み」ではなく、普遍的な行政運営の営みになることです。
国内では制度や文化の変化まで含めた実装を普及させていくこと、海外、特に東南アジアでは市民参画プラットフォームのデファクトスタンダードとしての定着につなげていくことを目指しています。
今後、技術・制度・思想の三つを揃えて、Liqlidを社会インフラにしていきたいと考えています。

神奈川県のベンチャー企業の成長促進拠点
SHINみなとみらい
かながわビジネスコミュニティベンチャー「SHINみなとみらい」

神奈川県では、WeWorkオーシャンゲートみなとみらいにおいてベンチャー企業の成長促進拠点「SHINみなとみらい」を運営し、ベンチャー企業に対して、行政や大企業等との交流・連携機会の提供をはじめ、様々な成長支援を行っています。

企業情報

株式会社Liquitous

株式会社Liquitous

事業内容

1. 市民ニーズの政策への反映と、市民理解の醸成を目的とした政策形成への市民参画オンラインプラットフォーム「Liqlid」の開発
2. 地方公共団体等における「Liqlid」を活用する各種事業のプロジェクト推進・コンサルティング
3. 地方公共団体等を対象とした官民連携‧官民共創の場づくりの支援
4. 市民参画のアセスメント(状況評価)やデジタル民主主義等に関する調査研究‧共同研究
5. その他デジタル民主主義の強化に寄与する補助ツール等の開発

企業サイト

https://liquitous.com/

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