子どもの移動から、体験機会をひらく。habが描く新しい放課後インフラ
hab株式会社 豊田 洋平
共働き世帯が増える中、子どもの習い事や学童への送迎は多くの家庭にとって大きな負担となっています。「通わせたい習い事はあるけれど送迎できない」。そんな理由で子どもの体験機会が制限されてしまうケースも少なくありません。
hab株式会社は、タクシー車両とのマッチングによる送迎サービスを起点に、民間学童や体験学習を組み合わせた新しい放課後サービスを展開しています。移動というインフラを軸として、保護者の時間課題と子どもの体験機会格差を同時に解決しようとする挑戦です。
本インタビューでは、事業の背景となる社会課題、送迎サービスからアフタースクールへと広がった事業の進化、神奈川県の支援制度の活用、そして今後の展望について伺いました。
habはどのような社会課題に向き合っているのでしょうか?
私たちは、保護者の「時間貧困」と子どもの「体験機会格差」という社会課題に向き合っています。
共働き家庭では、保護者の可処分時間が非常に少なくなっています。一方で、子どもにとって習い事や体験活動は成長にとって重要ですが、家庭環境や住んでいる地域によって、その機会に差が生まれてしまうことがあります。
こうした課題を解決するために、私たちは子どもの送迎サービスを展開しています。タクシー車両とのマッチングによって、習い事や学童への移動をサポートする仕組みです。
移動という視点から子どもの体験機会を広げることで、保護者の負担を減らしながら、より多くの子どもに学びや経験の機会を届けたいと考えています。
サービス紹介動画
送迎サービスだけでなくアフタースクール事業へと広がっていますね
送迎・学童・体験学習を組み合わせることで、子どもと家庭が抱える「時間」と「移動」の課題を包括的に解決する仕組みをつくっていきたいと考えています。
送迎サービスを展開する中で、「送迎を使いたい人がどれくらいいるのか分からない」という課題がありました。
施設側に送迎サービスを提案しても、実際の利用ニーズが見えないため、導入判断が難しいという状況が起きやすかったのです。
そこで私たちは、送迎サービスの利用環境そのものをつくるために、送迎機能を組み込んだ民間学童の仕組みを立ち上げました。子どもを一度預かり、そこから習い事などへ送迎することで、送迎サービスが成立する仕組みを作ろうと考えたのです。
この構想を形にしたのが、JR西日本およびJR西日本イノベーションズと共創して開校する「送迎拡張型アフタースクール」です。2026年春には、その第1校として「ねんりんkids JR住道駅校」を開校する予定です。
この施設では、従来のアフタースクール機能である宿題サポートや遊び場の提供に加え、学校から習い事施設への送迎サービスや、駅ならではの仕事体験プログラムなどを組み合わせた新しい放課後サービスを提供します。駅という地域の結節点を拠点にすることで、子どもの移動と放課後の時間の使い方を一体的に設計することを目指しています。
また、体験学習も特徴の一つです。
月に一度の探究学習として、パートナー企業の施設や設備を活用した体験プログラムを実施しています。企業の現場を訪れたり、専門家から直接話を聞いたりすることで、子どもたちの好奇心や探究心を育てる学びの場にもなっています。
さらに、JR西日本イノベーションズとは資本業務提携も行いました。今後は沿線エリアへの展開も視野に入れながら、子育て世帯の放課後の選択肢を広げる新しいインフラづくりに取り組んでいきます。
子どもの送迎課題に関する実証実験にも取り組まれていますね
子どもの送迎課題をより具体的に検証するため、habは2024年10月に神奈川県のベンチャー支援プログラムである「BAK(ビジネスアクセラレーターかながわ)」に採択され、株式会社IRと共同で実証実験に取り組みました。
このプロジェクトでは、「子ども・福祉領域における送迎課題の解決」をテーマに、自家用車で子どもの送迎を担う新しい仕組みとして「ケアドライバー制度」の検証に取り組みました。
2025年2月には、実際の送迎シーンを想定し、ボランティアドライバーによる試験走行を実施しました。放課後等デイサービスの送迎を想定したルートで運行し、送迎の現場でどのような課題が発生しているのか、また新しい仕組みによってどこまで解決できるのかを検証しました。
この試験運行では、一般のボランティアドライバーを「ケアドライバー」として活用し、送迎の運用や安全管理の仕組みづくりについて検証を行いました。研修やルート管理などの仕組みを整えることで、安全な送迎体制を構築できる可能性が確認されています。
また、送迎業務の負担軽減という観点でも成果が見えました。放課後等デイサービスでは、スタッフが送迎業務を兼任しているケースが多く、本来の支援業務に集中できないという課題があります。ケアドライバー制度を活用することで、スタッフが送迎業務から解放され、支援業務に専念できる環境を整えられる可能性が見えてきました。
こうした課題に対して、ケアドライバー制度を活用することで、事業者の負担を軽減しながら持続可能な送迎モデルを構築できる可能性があると考えています。
他にもBAKで「こども専用相乗りタクシー送迎サービス」の実証事業も行っていましたね。振り返ってみていかがでしょうか?
取り組みを通じて感じたのは、「子どもの移動課題はまだ十分に可視化されていない」ということでした。
高齢者の移動課題は地域交通の文脈でよく議論されていますが、子どもの移動については制度としての議論がまだ少ない領域です。実際には、習い事や福祉サービスへの通所など、多くの送迎ニーズが存在しているにもかかわらず、その実態は十分にデータとして整理されていません。
habでは、神奈川県の支援を受けて、タクシー事業者と連携した「こども専用相乗りタクシー送迎サービス」の実証実験を実施しました。横浜市内で小学生を対象に相乗りタクシーを運行し、AIによるルート設計を活用しながら、実際の利用ニーズや運行上の課題を検証しました。
この実証を通じて、地域や時間帯によって送迎ニーズが集中することや、習い事施設など特定の場所に移動需要が集まりやすいことなど、子どもの移動に関する具体的な傾向も見えてきました。
こうした知見は「子どもの交通空白地帯の見える化」にも取り組む今に繋がります。
こうしたデータをもとに、自治体や交通事業者、地域の事業者と連携しながら、子どもの移動を支える仕組みを社会の中に整えていくことが、これからの挑戦だと考えています。
他には神奈川県の支援制度はどのように活用しましたか?
事業の立ち上げ期には、「KSAP(かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム)」の神奈川県の支援制度を活用しました。
特に印象的だったのは、約100万円規模の補助金です。スタートアップにとって、この金額はMVP(Minimum Viable Product(最低限の実用的な製品))の検証を行うには非常にありがたく、最初の一歩を踏み出す資金として大きな意味がありました。
また、メンタリング支援も非常にありがたかったです。事業モデルのブラッシュアップや営業方法、今後の成長ストーリーについてアドバイスをいただきました。
さらに、「SHINみなとみらい」には起業家同士が交流できるコミュニティスペースもあり、情報交換やノウハウ共有を通じて事業を進めることができました。リアルな場でのディスカッションは、起業家にとってとても価値のあるものだと感じています。
今後どのような社会を実現したいと考えていますか?
私たちが目指しているのは、「子どもの移動」が社会のインフラとして整っている社会です。
共働き世帯が増える中で、放課後の送迎は多くの家庭にとって大きな負担になっています。習い事や学びの機会を広げたいと思っても、送迎が壁になってしまうケースも少なくありません。
私たちは、送迎プラットフォームやケアドライバーの仕組み、送迎拡張型アフタースクールの取り組みを通じて、子どもの移動を社会全体で支える仕組みをつくっていきたいと考えています。
子どもの移動が確保されることで、保護者の働き方の選択肢も広がり、子ども自身もより多くの体験や学びにアクセスできるようになります。
そうした「子どもの移動インフラ」を社会の中に実装していくことが、私たちのこれからの挑戦です。
現在、子どもの送迎に課題を感じている施設との連携を広げていきたいと考えています。
学童や習い事、放課後サービスなどで送迎に困っている事業者の方がいれば、ぜひ一度ご相談いただければと思います。
起業を目指す方にメッセージをお願いします
起業というと、大きな社会課題を解決しなければいけないとか、大きく成功しなければいけないと考えてしまう方も多いと思います。ただ、必ずしもそう考える必要はないと思っています。日常生活の中で「これ困っているな」と感じる課題からスタートするのでも十分です。
今は補助金や支援制度も多くあります。まずはそれらに応募してみることで、申請資料を作る過程で事業が整理され、自然とブラッシュアップされていきます。特に神奈川県は起業支援制度が充実しています。これから起業を考えている方は、ぜひ一度調べてみて、一歩を踏み出すきっかけとしてほしいと思います。
「かながわ・スタートアップ/アクセラレーション・プログラム(KSAP)」は、社会課題の解決に取り組むスタートアップを伴走支援するプログラムです。
年間を通じて、起業初期を対象としたプログラム「KSAPシード編」と、さらなる事業成長を目指す企業を対象としたプログラム「KSAPアーリー編」の2つを実施します。
「BAK」は、県内に拠点を持つ大企業等とベンチャー企業の連携によるオープンイノベーションの創出を目的とした取組です。企業、研究機関、支援機関などが参画する協議会「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」として、新たな連携プロジェクトの創出やコミュニティ形成を通じた共創の取組を推進しています。
神奈川県では、WeWorkオーシャンゲートみなとみらいにおいてベンチャー企業の成長促進拠点「SHINみなとみらい」を運営し、ベンチャー企業に対して、行政や大企業等との交流・連携機会の提供をはじめ、様々な成長支援を行っています。
企業情報
hab株式会社
【事業内容】
旅行業による募集型企画旅行の手配、ITサービス開発、コンサルティング等
【企業サイト】
https://habshuttle.com/