頼り合いを仕組みにする。AsMamaが実装してきた地域共助のかたち
株式会社AsMama 甲田 恵子
共働き世帯の増加、地域コミュニティの希薄化、子育てや介護の孤立化。
日本社会では「本当は助け合えるはずなのに、頼れない」という状態が、当たり前になりつつあります。制度やサービスは整備されてきた一方で、日常の中で自然に機能する“人と人の関係性”は、むしろ弱くなっているのが実情です。
AsMamaは、こうした課題に対し、「頼る・頼られる」を個人に委ねるのではなく、仕組みとして社会に実装することに取り組んできました。創業から17年、自治体・企業・地域と連携しながら、子育てや暮らしの中にある見えにくい困りごとを可視化し、持続可能な共助による解決を目指す形を探り続けています。
本インタビューでは、サービスの本質、起業の背景、神奈川県を主なフィールドとしてきた理由、そして「ビジネスアクセラレーターかながわ」(以下、「BAK」という)を成長戦略の一部としてどう位置づけ、事業を発展させてきたのかを聞きました。制度を「支援」としてではなく、「検証と意思決定の装置」として活用してきた同社のプロセスは、社会性と事業性の両立を模索する多くのスタートアップにとって多くの示唆がありました。
AsMamaは、どのようなサービスを提供していますか?
AsMamaは、地域の中で「つながり」と「共助」をつくり、子育てや暮らしを安心して頼り合える状態をつくるためのサービスを提供しています。
何か困ったときに、「あの人に聞いてみよう」「ちょっと頼ってみよう」と思える関係性が、自然に存在している。私たちが目指しているのは、そういう状態を仕組みとしてつくることです。
私たちが提供しているのは、単発の支援や一時的なつながりではありません。
「頼ること」が日常の選択肢として自然に存在し続ける、そのための仕組みそのものだと考えています。
具体的には、どのような形で共助を実装しているのでしょうか?
代表的な取り組みが、「子育てシェア」です。保育園や習い事の送迎、急な用事のときの預かりなど、子育ての中には日常的に細かな困りごとがあります。そうしたことを、家族だけで抱え込むのではなく、顔の見える関係の中で、無理のない形で頼り合えるようにしています。
そのために、AsMamaではアプリなどのオンラインの仕組みと、リアルな場での関係づくりを組み合わせています。いきなり共助の関係をつくるのではなく、まずはイベントや情報共有を通じて人となりを知り、少しずつ距離が縮まっていく。その延長線上に、自然な頼り合いが生まれるような設計を大切にしています。
また、こうした共助の仕組みは、子育てだけに限らず、自治体やマンション、企業など、さまざまなコミュニティにも応用しています。立ち上げて終わりではなく、どうすれば関係性が続いていくのか、誰か一部の人に負担が集中しないか。そうした点まで含めて、一緒に考え、運営に伴走しています。
なぜ、この領域で事業を立ち上げたのでしょうか?
もともと、子育てをする中で「困ったときに頼れない」という状況に強い違和感がありました。
本当は周りに人がいるのに、迷惑をかけてはいけないと思って声を上げられない。そうした状態が当たり前になっていることに、課題を感じていました。
また、子育てに限らず、同じ会社や地域にいても、お互いの状況が見えず、頼ること自体が難しくなっている。
個人の頑張りや善意に任せるのではなく、「頼る・頼られる」ことが自然に起きる状態を、仕組みとしてつくれないかと考えたことが、AsMamaを始めたきっかけです。
神奈川県を拠点としている理由について教えてください。
神奈川県は、都市部と地域性のあるエリアが同時に存在しています。
横浜や川崎のような都市もあれば、地域のつながりが比較的残っているエリアもある。この幅の広さは、共助の仕組みがどこまで通用するのかを試すうえで、非常に重要でした。
また、神奈川県は行政との距離が近く、事業の段階から対話できる環境がありました。
事業者として一方的に説明するのではなく、「一緒に考える」関係性が築きやすかったことも、神奈川をフィールドにしてきた理由の一つです。
県の支援策である、ベンチャー企業と大企業によるオープンイノベーションを支援する「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」も活用されたと思いますが、どのような点を検証し、事業にどのような影響がありましたか?
「BAK」では、企業や自治体と連携する文脈でも「共助の仕組み」が成立するのかを検証しました。
具体的には、「BAK」のプログラムを通じて小田急SCディベロップメント、カヤック、また相鉄ビルマネジメントなどと連携し、それぞれ異なる環境で「共助の仕組み」がどのように受け取られ、使われるのかを試しています。
これらの実証を通じて確認したのは、共助の考え方自体には共感が得られる一方で、場所や主体が変わると、関係性のつくり方や運営の難しさも変わるという点でした。
想定していたほど広がらなかったケースもありましたが、それを失敗と捉えるのではなく、「なぜその文脈では難しかったのか」を整理できたこと自体が、大きな成果だったと感じています。こうした検証の積み重ねが、現在のAsMamaの事業展開や、今後どの領域にどう広げていくのかを考えるうえでの、重要な判断材料になっています。
株式会社小田急SCディベロップメントとご近所同士のモノの貸し借りアプリ「ロキャピ」の実証実験
神奈川県や支援者の関わり方について、印象に残っていることはありますか?
非常に手厚く関わっていただいていると感じています。
たとえば、プロジェクトのひとつで、もともと自分たちでもアプローチをしていた企業があったのですが、神奈川県の担当者の方から改めてご紹介、過去の取り組みや現在の事業の変化についても一緒に説明する場をつくってくださいました。その流れで、今も継続的に事業をご一緒しています。
また、一度関わりができると、その後も「その後どうですか」と気にかけてくださったり、別の自治体をご紹介いただいたりと、単発で終わらない伴走が続いています。
ここまで気にしてもらえることは、通常の行政対応ではあまりないと感じました。
「BAK」での実証についても、神奈川県が間に入ってくださったことで、大企業との協働を「実証」という位置づけで進めることができました。
成果がすぐに出なかった場合でも、事業として無理に伸ばさなければならないというプレッシャーを感じることなく、「何がうまくいき、何がうまくいかなかったのか」を整理する学びの場として挑戦できたことは、とても大きかったです。
実証や支援の経験を経て、AsMamaとして今後取り組もうとしていることは何でしょうか?
これまでAsMamaは、自治体や企業と連携しながら、子育てや暮らしを頼り合えるコミュニティを地域ごとにつくり、それをどうサステナブルに運営するかに取り組んできました。
その中で最近特に感じているのが、企業の人事や経営の現場でも、同じような課題が起きているということです。
実際に企業の方々と話をすると、従業員の子育てや介護に関する困りごとが増えている一方で、人事部門だけですべての相談を受け止めるのは難しくなっている、という声をよく聞きます。同じ会社の中に、すでに経験者がいて、聞けば解決できることも多いはずなのに、それが活かされていない。その状況を変えられないかと考えています。
企業向けの活用としては、従業員同士が持っている経験や知識、リソースを、お互いに活用できる仕組みとして使ってもらえないか、という発想です。たとえば、子育てや介護の困りごとについて経験者を探して相談できるようにしたり、共通の関心を持つ人がイベントを立ち上げて、誰でも参加できるようにしたりする。以前は社内運動会や社員旅行のように自然と関係性が生まれる場がありましたが、そうした機会は減っているからこそ、「やりたい人が立ち上げて、誰でも乗っかれる」つながりを、仕組みとして企業の中につくれないかと考えています。
また、学校や習い事といった地域の場面でも活用の可能性があると感じています。共働き世帯が増える中で、送り迎えや連絡の負担は保護者にとって大きな課題です。送り迎えを輪番制でできるようにしたり、連絡網として使ったり、お下がりのやり取りをしやすくしたりといった形で、日常の困りごとをきっかけに自然に頼り合える関係が生まれていく。その積み重ねが、結果として習い事や部活動を続けやすくしたり、防災時の連絡手段としても役立ったりするのではないかと考えています。
最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
神奈川の中でも、横浜市や箱根町、マンションコミュニティなど、すでにいくつかの地域でプロジェクトが動いています。
今後も、地域を盛り上げたい、子育てを応援したいという思いを持つ企業や事業者の方と、連携していけたらと考えています。
起業を考えている方や、新しい取り組みを始めたい方とも、地域広報やファンづくりの面で協力できることがあると思います。
そうした形で、一緒にまちづくりに関われる方が増えていけば嬉しいです。
「BAK」は、県内に拠点を持つ大企業等とベンチャー企業の連携によるオープンイノベーションの創出を目的とした取組です。企業、研究機関、支援機関などが参画する協議会「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」として、新たな連携プロジェクトの創出やコミュニティ形成を通じた共創の取組を推進しています。
企業情報
株式会社AsMama
- 【サービス内容】交流・体験学習イベントの企画・運営
- 共助SNS(システム)の設計・構築・運営・監視
- 人財・団体の育成、エリア・マネジメント
- マーケティング新事業、コンサルティング
【企業サイト】