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医療の距離を越え、重症患者を支える。CROSS SYNCが描く遠隔ICUの未来

株式会社CROSS SYNC 髙木 俊介

医師不足や地域医療の偏在が課題となる中、重症患者に必要な医療を地域や病院の垣根を越えて届ける仕組みが求められています。

遠隔ICUとは、ICTを活用し、遠隔地の支援センターと患者のいる医療機関をつなぐ診療提供体制です。生体モニターや映像、電子カルテなどの情報をリアルタイムに共有し、集中治療専門医や専門看護師がベッドサイドの医療チームを支援します。

株式会社CROSS SYNCは、横浜市立大学病院認定ベンチャーとして、「医療の今を変える。」を掲げる医療スタートアップです。生体看視アプリケーション「iBSEN DX(イプセン ディーエックス)」を通じて、あらゆる病床にICU並みの医療環境を提供する「ICU Anywhere」の実現を目指しています。

本インタビューでは、CROSS SYNCの取締役会長 髙木俊介さんに、遠隔ICUの現場で見えている課題、システム導入と運用定着のリアル、そして今後の展望について伺いました。

CROSS SYNCはどのような事業を展開していますか?

生体看視アプリケーション iBSEN DX

遠隔ICUは、どのような現場で使われるのでしょうか?

遠隔ICUでは、専門医がいる大学病院などを「ハブ」、支援を受ける病院を「スポーク」としてつなぐ形が多いです。ハブ側になるのは、主に大学病院や県内の大きな病院で、一方スポーク側は中規模の病院や、医師の数が限られている地域の病院です。都市部では、比較的大きな病院であっても、集中治療の人材が足りないためにスポーク側になることがあります。

地域医療計画の中では、各県でどの病院に機能を集約し、どの病院が支援を受けるのかという役割分担が検討されています。その中で、遠隔ICUは「この病院がセンターになり、こちらの病院は大学病院に相談しながら診療を行う」といった体制を具体化する手段になります。

事業の入り口としては、ハブ側の大学病院や大規模病院から相談が始まることが多いです。学会や展示会で「うちの県でもやらなければいけない」という話になったり、出資企業や医療機器メーカーの営業担当の方が大学病院との窓口になってくださったりするケースもあります。

一方で、スポーク側から「つながる先が見つかっていない」という相談が来る場合もあります。その場合は、既に遠隔支援に取り組んでいる大学病院とつなぐなど、地域ごとに最適な形を探っていきます。

IBSEN DXを用いた遠隔ICUの実現

導入した現場では、どのような変化が生まれていますか?

ハブ側の先生からは、突発的な夜間の連絡が減って、医師の負担が減るようになったという声があります。これまでは、夜中に電話で相談を受け、限られた情報だけで判断しなければならないことがありました。電話だけでは、患者さんの状態を正確に把握することが難しい場面もあります。

一方でスポーク側にとっては、これまで相談しづらかった大学病院に、いつでも連絡できるようになることが大きなメリットです。

CROSS SYNCのシステムでは、患者さんの様子やモニター画面、電子カルテの情報などを共有できます。これにより、看護師さんが自分で病態を言語化して説明しなければならない負担が軽くなります。

例えば、これまでは「血圧がこのくらいです」「呼吸状態がこうです」と電話で説明していました。しかしICUでは、単なる数値だけではなく、血圧の波形や呼吸の様子、これまでの経過などを総合的に見て判断します。

遠隔でモニター画面やカルテ情報が見られるようになることで、外にいる医師も患者さんの状態をより具体的に把握できます。電話で聞いた情報だけで判断する場合と比べて、助言の質にも差が出ます。

現場の方にとっても、「この患者さんです」と共有すれば、相手側が状況を見て理解できる。そういう状態になることで、相談の心理的なハードルが下がっていきます。

システム導入では、どのような難しさがありますか?

遠隔ICUのシステムは、Webアプリケーションではありますが、病院ごとの環境に合わせた導入が必要になります。特に医療情報を扱うため、個人情報や病院の医療情報部門のポリシーに配慮しなければなりません。

現在は、各病院内にサーバーを構築し、モニターからのデータを院内で扱うオンプレミス型の構成になっています。必要な情報のみを遠隔に専用のネットワークを経由して表示するような仕組みです。

生体モニターについては、日本では主要なメーカーが限られているため、接続のハードルはかなり越えてきました。一方で、電子カルテとの接続は病院や企業ごとに異なり、データを抽出しようとするとコストがかかります。

技術的には、電子カルテの情報を自動で抽出し、連携することは可能です。ただ、そこにかけられるコストや開発リソースの問題があります。今は大学病院側で、各病院の電子カルテを開いて、必要な情報を手作業で見ている場面もあります。

30人から50人の患者さんの情報をマニュアルで確認するのには限界があります。将来的には、そこも自動化していく必要があると考えています。

今後、どのような領域に広げていきたいですか?

現在はICUを中心に事業を進めていますが、重症患者さんや医療現場の困りごとはICUだけにあるわけではありません。病棟や救急外来、さらに慢性期の介護施設や在宅医療の現場にも、人手が足りない中で患者さんを見ている場所があります。

私たちはあらゆる病床にICU並みの医療環境を提供する(ICU Anywhere)を掲げており、どこにいてもICU並みの環境を提供したいという思いがあります。

例えば、大学病院のハブがあり、地域のスポーク病院があり、そのさらに先に、介護施設や在宅で療養している方がいる。重症の状態を脱しても、後遺症が残ったり、自宅でのケアが必要になったりする方もいます。

そうした方々の状態を継続的にモニタリングできる仕組みがあれば、一度退院した後に具合が悪くなったとき、再搬送が必要なのか、在宅で見守れるのかといった判断にもつながります。

さらに、ACP、つまりアドバンス・ケア・プランニングのように、高齢の方が急変した場合や終末期を迎える場合に、どのような医療を受けたいのかを遠隔で説明し、同意を得るような場面にも広げていける可能性があります。

ICUだけを見るのではなく、その前後も含めて情報がつながる状態をつくっていきたいです。

CROSS SYNCの目指す姿

導入を広げるうえで、どのような課題がありますか?

リードタイムの長さは大きな課題です。病院への導入には、補助金の申請や現場の説得も含めて、1年から1年半ほどかかることがあります。

ハブ側の大学病院が積極的になっても、支援を受けるスポーク側の病院にも理解してもらう必要があります。さらに病院の中には、事務、医療情報部、システム担当、医師、看護師など、さまざまな職種の方がいます。1つの病院だけでも関係者が多く、さらにもう1つの病院とつなぐとなると、調整はかなり複雑になります。

また、自治体によっても温度感が大きく異なります。医療体制を何とかしなければいけないという危機感を強く持っている自治体もあれば、まだ関心が高くない地域もあります。遠隔ICUの導入には、自治体の力も非常に重要です。

コミュニケーションの面でも気をつけていることがあります。ハブ側は、地域医療を支える役割があり、診療報酬もついているため、比較的メリットを理解してもらいやすいです。一方でスポーク側は、「自分たちは監視されるのではないか」「見られたくない」と感じる場合もあります

そのため、フラットな関係で、一緒に医療を良くしていくという伝え方が大切です。教育的な意味合いもあり、双方にとってメリットがあることを、一つひとつ理解してもらう必要があります。

CROSS SYNCはかながわビジネスオーディション2026において、「優秀賞」を受賞しました。また、団体賞として「神奈川ニュービジネス協議会賞」「KSP賞」「神奈川県中小企業診断協会賞」の3つの賞も受賞しました。神奈川ビジネスオーディションには、どのようなきっかけで応募されたのですか?

きっかけは、チラシを見たことでした。賞金100万円と書かれていたことが目に入り、広報担当の方とも「出してみよう」という話になりました。

地方のピッチイベントなどに誘われることもありますが、遠方まで行って参加するのはなかなか大変です。その点、神奈川で開催されるものであれば参加しやすいということもありました。

受賞後は、「いろいろな賞を取っていますね」と言われることが増えました。また、賞をいただいたことをきっかけに、講演に呼んでいただく機会も出てきています。

直接すぐに顧客につながるわけではないかもしれませんが、受賞していることは信用につながります。「きちんと評価されている会社だ」と見てもらえることは大きいです。

また、神奈川の場で新しい出会いがあり、県内で事業を進めていくうえでの関係性にもつながっています。取り上げてもらえる機会が増えることは、事業を続けるうえでのモチベーションにもなります。

かながわビジネスオーディション2026 優秀賞受賞の様子

ここまで事業が成長する中で、複数回の資金調達を行われていますね。資金調達は、どのように進んでいったのでしょうか?

最初の資金調達は、本当に熱量に対する投資だったと思います。日本政策投資銀行の方に、当直明けで会いに行き、「こんなことをしたいんです」と話しました。その時点では、きちんとした事業計画があったわけではなく、プロダクトも医学部の学生と一緒に作り始めたところでした。

それでも担当の方が「大事そうだけれど、事業としてはまだよく分からない。でも応援しましょう」と言ってくださり、半年くらいかけて、事業として見える形にしていただいたのが最初のきっかけです。

2回目は、コンセプトのものが少しずつ形になり、事業計画も整ってきたタイミングでした。診療報酬化されるかどうかという時期でもあり、事業としての見通しが少しずつ見えてきた段階です。

その後は、遠隔医療や医療機器との親和性を感じてくださった事業会社が入ってきました。例えば、遠隔医療や医療コミュニケーションの領域で事業を展開している企業、モニター機器を扱う企業、ベッドやセンサーを持つ企業などから出資いただきました。

CROSS SYNCの場合、単に短期的なリターンを見込んだ投資というより、事業連携を前提にした出資が多いです。目先の収益だけではなく、自社の事業拡大の可能性や、社会的に必要な事業であることに共感していただいている面が大きいと感じています。

起業初期を振り返って、どのような苦労がありましたか?

外から見ると、資金調達も進み、事業も順調に広がっているように見えるかもしれません。ただ実際には、かなり泥臭く動いていました。

当直の前後や土日を使って、ピッチイベントに行ったり、投資家に会いに行ったり、海外に行ったりしていました。

初期のころは、20件くらい申請して、ようやく1件、100万円ほどの研究費が取れたというような状態でした。打率でいえば1割あるかないかくらいです。

ただ、そこを早めに諦めてしまう人も多いように感じます。最初はうまくいかなくても、外に出て話し続けることで、誰かがつないでくれたり、支援してくれたりすることがあります。

今後の展望を教えてください。

まずは遠隔ICUの導入先を増やしていくことが前提になります。ただし、ICUだけでは現場のニーズをすべて満たすことはできません。

今後は、病棟、救急外来、慢性期、介護、在宅といった領域にも広げていく必要があると考えています。重症患者さんだけではなく、その前後にいる患者さんや、退院後にケアが必要な方々まで、情報をつないでいくことが重要です。

最終的には、医師や看護師がその場にいなくても、必要な情報が共有され、適切な判断ができる状態をつくりたいです。ICU並みの医療を、ICUの外にも届ける。それが「ICU Anywhere」の目指す姿です。

もちろん、場所によって必要な情報や見るべきパラメーターは変わります。ICUと在宅では必要な要素も違います。それでも、患者さんの情報が切れずにつながり、医療者が適切に支援できる仕組みは、これからの医療に必要になると考えています。

株式会社CROSS SYNC 髙木 俊介さん

これから起業する方へのメッセージをお願いします!

私の場合は、とりあえず起業してみてから、いろいろ動いてきました。なので、いつのタイミングで起業してもいいのではないかと思っています。

起業するだけなら、そこまで大きなお金がかかるわけではありません。法人をつくったことで覚悟が決まったり、それがモチベーションにつながったりすることもあります。

ただ、起業に限らず、研究でも新規事業でも、内輪だけでずっと話し続けるのはやめた方がいいと思います。自分たちの中では「100%見つけた」と思っていても、外に出て話してみると全然違うことがあります。

だからこそ、いろいろな人に話してみることが大切です。自分が考えていることを、内輪ではない人にぶつけてみる。そうすると、誰かいい人が助けてくれたり、つないでくれたりします。

最初は打率が低くてもいいと思います。私自身も、研究費や支援を取るために何度も申請し、何度も話しに行きました。最初の何年かは、正直コストパフォーマンスは悪かったと思います。それでも、動き続けることで少しずつ形になっていきました。

起業は、完璧に準備ができてから始めるものではないのかもしれません。まず外に出て、話して、試してみる。その積み重ねが、次の一歩につながっていくのだと思います。

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