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ペットと飼い主の生涯に道しるべを。e-PONが挑むペット医療と飼い主支援の新しいかたち

株式会社e-PON 鷲沼 輝勝

ペットは家族の一員として共に暮らす存在になりました。しかし、病気や治療、日々のケアについての情報は十分に整理されているとは言えず、飼い主が不安を抱えながら判断を迫られる場面も少なくありません。

株式会社e-PONは、「ペットと飼い主の生涯に道しるべを」という理念のもと、ペット医療と飼い主の意思決定を支援するサービスの開発を進めています。獣医師としての臨床経験を持つ鷲沼輝勝さんが立ち上げた同社は、飼い主向けの健康・病状記録アプリと、動物病院向けの業務支援ソフトウェアを通じて、ペット医療の現場に新しい価値を生み出そうとしています。

本インタビューでは、e-PONの鷲沼 代表取締役に起業の経緯、プロダクト開発のリアル、神奈川県のスタートアップ支援制度の活用、そして今後の展望について伺いました。

e-PONはどのような事業を展開していますか?

現在は大きく2つの事業に取り組んでいます。1つは、飼い主さん向けのペットの健康・病状記録アプリ「ノコロク」の開発です。もう1つは、動物病院向けに在庫管理などの業務支援を行うソフトウェアの開発です。

ノコロクは、ペットの日々の体調や服薬、通院履歴などを記録できるアプリです。日常の小さな変化を残しておくことで、動物病院を受診する際に状況を正確に共有でき、より適切な診療やケアにつなげることを目的としています。

もともとは、飼い主さんが記録した体調や服薬の情報を動物病院とも連携させる構想でした。実際にベータ版のアプリを提供しながら、4つの動物病院にもソフトウェアを導入し、1か月ずつ実験的な運用を行って検証を進めてきました。

その中で、健康や病状の記録は飼い主さんにとって手間に感じられやすく、継続利用に課題があることや、動物病院側にも新しいシステム導入のハードルがあることが見えてきました。

現在はまず、飼い主さん向けのサービスとして広げやすい形に注力しつつ、動物病院の現場課題を解決する業務支援ツールの開発も進めています。将来的には両者がつながり、飼い主さんと動物病院の情報が自然に連携する仕組みを目指しています。

 
 
飼い主さん向けのペットの健康・病状記録アプリ「ノコロク」

なぜこの領域で起業したのですか?

私はもともと獣医師で、東京大学農学部獣医学科を卒業したあと、神奈川県座間市の動物病院で臨床獣医師として働いていました。臨床というのは、実際に動物病院の現場で患者さんを診て、診断や治療を行う仕事です。外来もあれば入院管理もありますし、救急の症例を診ることもあります。内科も外科も含めて、総合的にいろいろな症例に向き合ってきました。

一般の方のイメージでは、獣医師といえば犬や猫を診るお医者さんを思い浮かべることが多いと思うのですが、実際には獣医師の職域はかなり広いです。家畜を診る方もいれば、感染症対策や検疫に携わる方もいます。その中で私は、犬や猫など小動物の臨床現場にいました。

そうした現場で働く中で強く感じたのが、ペットの看病をしている飼い主さんの負担の大きさです。特に薬に関する悩みは大きいです。ペットの場合、自分で薬を飲んでくれるわけではないので、日々の投薬が飼い主さんの負担になりますし、そもそもこの薬が何のためのものなのか、本当に効くのか、飲み忘れたらどうすればいいのか、といった不安を抱えている方も多いです。

さらに、動物医療では薬そのものにも課題があります。人の医療と同じ薬を使うこともありますし、動物用医薬品もありますが、供給が安定しないこともある。人の医療で需要が高まると、動物医療のほうが後回しになってしまうこともあります。また、人間の医療のように薬局があるわけではないので、動物病院の中で在庫を持ち、管理しなければいけません。現場で働いていると、いざ必要な薬を出そうと思ったら在庫がない、ということも実際にありました。

飼い主さん側にも、動物病院側にも、それぞれ困りごとがある。そしてそのしわ寄せは、最終的には動物自身にも及びます。そこに対して、何か仕組みとして支えられるものをつくりたいと思ったのが起業のきっかけです。

株式会社e-PON 鷲沼さん

起業の準備はどのように進めていったのでしょうか?

最初から明確な事業計画があったわけではありません。神奈川県の起業家創出拠点「AGORA Hon-atsugi」での「HATSU起業家支援プログラム」に応募した時点では、「こういうアプリがあったらいいのではないか」という構想レベルでした。ある意味、希望や妄想に近いところからスタートしています。

ただ、採択され、支援を受けたプログラム期間中に大きく2つの前進がありました。1つは、実際に開発できるエンジニアに出会えたことです。もともとは自分でアプリを作ろうとして、3か月くらい挑戦したんですけれど、やはり難しくて。そこで、ほかの人の力を借りたいと思うようになりました。仲間集めをどうしたらいいか相談する中で、最終的にはXで個人開発の方にDMを送り、ご縁がつながりました。今はそのエンジニアと2人で一緒に開発しています。

もう1つは、ニーズ検証がしっかりできたことです。当時勤めていた動物病院で、100人の飼い主さんにアンケート調査を行いました。さらにインタビューも実施して、実際にこういうアプリがあったら喜んでもらえるのか、どんな点に価値を感じてもらえるのかを確かめていきました。最終的にはプロトタイプまでつくり、協力してくださるモニター会員さん11名と一緒に、2週間ほど検証も行いました。

この段階で、単なるアイデアだったものが、検証できるプロダクトの形になり、今後ベータ版を出してアップデートしていこうという意思決定につながりました。

神奈川県の支援はどのように活用しましたか?

私はもともと起業とは無縁の立場だったので、どうやって事業を形にしていけばいいのか、最初は全く分かりませんでした。HATSUでは、その基礎の部分を本当に丁寧に支えていただきました。

特にありがたかったのは、ニーズ検証の進め方です。アンケートの設問をどう設計するか、検証結果をどう分析するか、実証実験をどう組み立てるかといったところを、メンターの方に一つひとつブラッシュアップしていただきました。私は実行する側でしたが、戦略面では本当に“参謀”のように支えていただいた感覚があります。

また、自分が働いていた病院が検証の場になったことで、飼い主さんにもアプローチしやすく、実証実験にもつなげやすかったです。そういう意味では、支援プログラムと自分の現場経験がうまくかみ合ったと思います。

その後、「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」にも採択いただきました。HATSUが起業前の支援でしたが、KSAPは実際に起業してから、事業をどう成長させていくかを支援してくれるプログラムです。雰囲気もかなり違っていて、より現実的で、経営に近いサポートを受けることができました。

例えば、PL(損益計算書)をどう考えるか、自分たちの事業はJカーブを描くような成長モデルなのか、それとも着実に積み上げるモデルなのか、どんな資金計画を持つべきかといったことを深く考える機会になりました。起業家として、会社経営の基礎を学べたのはとても大きかったです。

それに加えて、神奈川県の支援は本当に一人ひとりに親身だと感じています。メンターの方々だけでなく、県の職員の皆さんも含めて、神奈川県として応援してくださっている感覚があります。こういう企業とつながりたい、こういう場に出たい、という相談に対して、できないことをできるに変えようとしてくださる。その心強さは大きいです。

そのような支援のもとブラッシュアップしていった結果、「スタートアップオーディションinYOKOSUKA2025」で銀賞や、その他複数の賞いただくことができ、「かながわビジネスオーディション2026」では特別賞をいただくことができ、結果が少しずつ出始めています。

スタートアップオーディションinYOKOSUKA2025受賞の様子

ベータ版を出してみて、どのような手応えや課題がありましたか?

まず、サービスを実際に形にして世の中に出せたこと自体が大きな一歩でした。ユーザーの方に使っていただき、その後インタビューを行うことで、机上では見えなかったリアルな反応や気づきを得ることができました。HATSUの段階である程度ニーズ検証を行っていたこともあり、アプリのコンセプトそのものについては前向きな反応をいただけたと感じています。

また、登録までの導線はLINEなどを活用していたため、使い始めるところまでは比較的スムーズに進みました。一方で、継続利用の面では、「記録」という行為がユーザーによっては少し負担に感じられる場合もあることが分かり、今後さらに使いやすい形に改善していける余地が見えてきました。

さらに、動物病院への導入についても多くの学びがありました。動物病院ではすでに電子カルテや予約システムなど複数のツールを運用しているため、新しいシステムを導入する際には慎重な検討が必要になります。飼い主向けと動物病院向けの両方を同時に進める中で、それぞれの現場の状況をより深く理解できたことは、今後のサービス設計にとって大きな収穫だったと感じています。

今後はどのような方向で事業を進めていく予定ですか?

今後は、まず飼い主向けのアプリに特化して広げていく方針です。ベータ版では動物病院との連携も前提にしていましたが、まずはユーザーがより使いやすく広がりやすい形にしていきたいと考えています。また、「記録」という言葉が持つハードルもあるため、見せ方や伝え方も工夫していく予定です。

一方で、将来的には動物病院との連携も重要だと考えています。そのため現在は、動物病院向けの在庫管理ツールも同時並行で開発しています。まずは現場の課題を解決するところから関係性を築き、そこから飼い主向けサービスにもつなげていきたいと考えています。

確かな情報共有でペット・家族の生涯をサポート

今後の展望を教えてください!

今、特に着目しているのは薬です。もともとの起業動機も、ペットの看病をしている飼い主さんを支えたいという思いでしたし、病気の治療において薬は非常に重要な存在です。

ただ、ペットの服薬には、飼い主さん側にも動物病院側にもいくつもの課題があります。飼い主さんにとっては、毎日の投薬そのものが負担ですし、この薬は何のためのものなのか、本当に必要なのか、といった不安もあります。動物病院側にとっても、薬の在庫が不安定だったり、管理が煩雑だったりと、オペレーション上の課題があります。

私は、ここをスムーズにしていきたいと考えています。動物病院も飼い主さんも不安が少なくなり、結果として動物にとってより良い医療につながる状態をつくりたいです。

そのためにも、まずは飼い主さん向けのサービスをしっかり広げていくことが重要だと思っています。もともとは動物病院と連携することで飼い主さんのメリットが増えると考えていましたが、実証を通じて、それがかえって広まりにくさにつながることも分かりました。なので、まずは飼い主さん向けに特化した形で広げる。そのうえで、動物病院の課題を別のプロダクトで解決しながら、少しずつ両者をつないでいきたいです。

また、サービスをより良いものにしていくためには、自社だけで完結するのではなく、外部の企業やパートナーと一緒につくっていくことも大切だと思っています。獣医師としての知見や動物病院とのチャネルを生かしながら、興味を持ってくださる企業と一緒に価値をつくれたらうれしいです。

今、どのようなつながりを求めていますか?

本リリースに向けては、まず飼い主さん向けに特化したサービスを磨いていきたいと思っています。ただ、自社だけで本当に良いものをつくり切れるかというと、限界もあると感じています。

そのため、獣医師としての知見や動物病院とのネットワークを活用しながら、一緒にサービスをつくってくださる企業やパートナーと出会いたいと考えています。今あるベータ版をより良いものにしていく段階なので、共同開発や協業のような形で関わっていただけるとうれしいです。

飼い主さんが多く集まるサービスやコミュニティとつながれば、そこに対して広告やイベント、情報発信など、いろいろな形で可能性も広がっていくと思っています。なので、単なるユーザー獲得だけではなく、ペット領域で新しい価値を一緒に考えてくださる方とつながれたらありがたいです。

これから起業する方へのメッセージをお願いします

起業というと、怖いとか、失敗しそうとか、すごい人がやるものというイメージを持つ方は多いと思います。私自身も、もともとは動物病院で働く獣医師だったので、その感覚はよく分かります。

ただ、この2年間、起業準備に約1年、起業してから約1年と取り組んできて、一日として同じ日がない生活だと感じています。予測できないことも多いですが、その分とても刺激的で、自分の成長にもつながっています。

また、神奈川県の支援を受ける中で感じたのは、失敗を笑う人がいないということです。怖いとか不安だという気持ちも否定されませんし、皆さん本当に親身に応援してくださいます。だからこそ、失敗するからやらないのではなく、失敗してもやってみようと思えるようになりました。

起業というのは、すごいアイデアがある人だけがやるものではなくて、日常の中で感じた課題を何とかしたいと思うところから始まるものだと思っています。もし迷っている方がいれば、一人で抱え込まずに支援プログラムに応募してみるのも一つの方法です。誰かに相談することで、見える景色が変わることもあると思います。

今のe-PONは、まだ完成された成功事例ではなく、支援を受けながら試行錯誤している途中です。ただ、HATSUに応募する前と今とでは、取り組んでいることは大きく変わりました。これからも現場で見えている課題に向き合いながら、一歩ずつ進んでいきたいと思っています。

神奈川県のベンチャー企業の成長促進拠点
SHINみなとみらい
かながわビジネスコミュニティベンチャー「SHINみなとみらい」

神奈川県では、WeWorkオーシャンゲートみなとみらいにおいてベンチャー企業の成長促進拠点「SHINみなとみらい」を運営し、ベンチャー企業に対して、行政や大企業等との交流・連携機会の提供をはじめ、様々な成長支援を行っています。

民間と市町村が運営するコワーキングスペースと連携した 「HATSU」関連支援拠点
AGORA Hon-atsugi
HATSU起業家支援プログラム
AGORA Hon-atsugi

神奈川県では、地域発の起業家を次々と生み出す「HATSU起業家支援プログラム」により、有望な起業準備者(チャレンジャー)に対して事業化の実現に向けた伴走型集中支援を行うことにより、起業家の創出を促進しています。厚木市内の起業家創出拠点「AGORA Hon-atsugi」で起業を目指すチャレンジャーを募集しています。

神奈川県発「社会課題解決型スタートアップ」の成長を支援するプログラム​
かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)
かながわ・スタートアップ/アクセラレーション・プログラム(KSAP)

「かながわ・スタートアップ/アクセラレーション・プログラム(KSAP)」は、社会課題の解決に取り組むスタートアップを伴走支援するプログラムです。
年間を通じて、起業初期を対象としたプログラム「KSAPシード編」と、さらなる事業成長を目指す企業を対象としたプログラム「KSAPアーリー編」の2つを実施します。

企業情報

株式会社e-PON

株式会社e-PON

【事業内容】
動物医療のITソフトウェア開発と運用

【企業サイト】
https://e-ponvet.com/

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