事例・インタビュー

\ 活躍する起業家や支援の取り組みをご紹介 /

社会性と経済性の両立を目指す起業家へ。HATSU鎌倉が描く次の起業家像

神奈川県産業振興課 江無田建善、株式会社あゆみの 町塚俊介 

神奈川県が取り組むベンチャー支援のかながわモデル「HATSU-SHIN KANAGAWA」では、起業前を支える「HATSU起業家支援プログラム」と、起業後の成長を促進する「SHINみなとみらい」によって、一気通貫の支援体制を構築しています。

今回は、起業の準備段階にフォーカスする起業家創出拠点「HATSU鎌倉」について、神奈川県担当の江無田さんと、拠点を運営する株式会社あゆみの 代表の町塚さんにインタビュー。設立の背景から、社会性と経済性を両立する起業家を育てる思想、創業期から成長期にかけての課題、そしてAI時代に求められる主体性まで、現在地とこれからの展望を伺いました。

 起業準備者を増やすことが、県内経済の未来につながる

まず、HATSU鎌倉が生まれた背景について教えてください


江無田さんのアイコン


江無田さん
出発点は、県内経済活性化という大きな課題意識でした。その中で、起業する人そのものだけでなく、「起業準備者が減少している」という分析結果がありました。

起業家を増やすためには、その前段階である“起業準備者”の層を厚くする必要があります。準備者が増えれば、そこから起業家が生まれ、雇用や新しい産業の創出につながる。そうした構造的な流れを踏まえ、「起業準備段階に特化した支援モデル」としてHATSU鎌倉が立ち上がりました。

HATSU鎌倉の様子

 

HATSU鎌倉の位置づけ

HATSU鎌倉の支援プログラムは起業をする方にとってどのような位置づけですか


町塚さんのアイコン


町塚さん
よく「創業支援」とひとくくりにされることもありますが、HATSU鎌倉は、「成長を前提とした事業創出」を目指すプログラムとして設計されている、という理解が近いと思います。

経済活性という文脈で見たときに、もちろん働き手が増えることも大切ですが、ベンチャー企業のように雇用を伴いながら成長していく事業の方が、経済へのインパクトは大きい側面があります。

地域によって起業の温度感には差があるかもしれませんが、HATSU鎌倉は大きな成長を目指すベンチャー企業を創出し、支援する政策の一環として取り組んでいるものです。


 

HATSU鎌倉のコンセプト

HATSU鎌倉の思想はどのように形づくられてきたのでしょうか


町塚さんのアイコン


町塚さん
「HATSU-SHIN」のコンセプトとしては「段階別に応じた丁寧な支援」という骨格があります。立ち上がり当初は、それをどのように実現させるかという点で、良い意味で余白がある状態でした。そのため、具体の中身は現場とともに育てていく、そういった動きをしていました。

鎌倉という地域性や、そこに集まる人たちの思いを踏まえながら、県にとっても地域にとっても意味のある場とは何かを模索してきました。

鎌倉での展開にはどのような意味があったのでしょうか


町塚さんのアイコン


町塚さん
鎌倉という土地が持つ思想性や地域性は、「社会性と経済性の両立」を掲げるエコシステムと相性が良かったと考えています。いわゆる“ゼブラ的”な起業家が集まる場にしたいという思いは、立ち上げ当初からありました。

 

HATSU鎌倉の様子

HATSU鎌倉の支援の特徴

HATSU鎌倉の支援の特徴について教えてください


町塚さんのアイコン


町塚さん

単に「支援する」「コンサルティングする」という関係ではなく、運営側自身も起業に挑戦する方(HATSU鎌倉では「チャレンジャー」と呼んでいます)と同じくらい挑戦しているという姿勢を持つ。その中で生まれる信頼を大事にしてきました。

現在は、HATSU鎌倉の取組が社会に定着し、受け入れられてきているフェーズにあると感じています。実際に、数多くの革新的なチャレンジや、地域や社会をよくするサービス・プロダクトが次々と生まれてきました。

これらの実績が評価され、関東経済産業局の「ローカル・ゼブラ企業・支援拠点事例集」にも、自治体と連携した社会課題解決と経済活動を両立させる象徴的な支援拠点として掲載されています。

また今年度(令和7年度)は、HATSU鎌倉で行っている起業支援プログラムが、鎌倉市の「特定創業等支援事業」として位置づけられました。支援プログラムに参加することで、創業融資における金利優遇や登録免許税の軽減など、制度的なメリットも得られるようになっています。思想やコミュニティだけでなく、具体的な支援体制も充実してきています。

さらに大きな特徴として、「起業を支援する」のではなく、「起業家を支援する」という姿勢があります。事業アイデアそのものよりも、その人をどう支えるかという対話を重視しています。チャレンジャー自身がそう感じてくれている点も、HATSU鎌倉の特徴の一つだと思います。


江無田さんのアイコン


江無田さん

支援体制という意味では、HATSU鎌倉のチャレンジャーにとって、起業後フェーズにある「SHINみなとみらい」との接続も一つのメリットです。起業前の段階であっても、次のステージにいる起業家の姿を間近で見ることができる。

SHINみなとみらいのコミュニティやイベントに参加し、自分たちの先にある世界を知ることができるのは大きな学びになります。

また、行政との接続も支援の一側面です。実証実験をしたい、市町村や県の部署とつながりたいという場合には、県の担当が窓口となり、関係部署につないでいます。もちろん、必ず連携できるわけではないですが、行政側の視点や考え方を知ることができることも、HATSU鎌倉に採択されたチャレンジャーにとっての具体的なメリットの一つだと考えています。

 

HATSU鎌倉の様子
HATSU鎌倉令和7年度チャレンジャー

創業期と成長期の「溝」をどう越えるか

これまで多くの起業家を輩出していますが、HATSU鎌倉の今についてどのように捉えていますか


町塚さんのアイコン


町塚さん

チャレンジャー制度を通じて延べ100名を超える起業準備者を支援してきており、これまで多くの起業家が生まれてきました。様々なサービスや製品を提供する企業が立ち上がり、社会へのインパクトを生んでいる一方で、HATSU鎌倉としては当初掲げていたコンセプトと現在地を、改めて見つめ直すタイミングに来ています。

その一つが、社会性と経済性を両立しようとする起業家が、創業期から成長期へ移行する際の難しさです。
事業のかじ取りが複雑になり、「良いことをやる」だけでも、「売上を伸ばす」だけでも成立しない局面が出てきます。社会性と経済性は足し算ではなく掛け算です。どちらかがゼロになれば、全体もゼロになる。

その“溝”をどう越えるのか。再現性のある形で整理していくことが、今の大きなテーマです。

マインドセットの面も重要です。社会的な思いが強い人ほど、「泥臭く稼ぐ」「勝ちにいく」「選ばれることに集中する」といった視点が弱まることがあります。

社会性と経済的成長。その両立をどう設計するか。実際に事業戦略や資金状況を共有し合い、相互にフィードバックする場も設けています。


江無田さんのアイコン


江無田さん
町塚さんの言うとおり、社会課題の解決と事業の成立を目指してほしいと思います。ただ、同時に高めるのは簡単ではありません。特に成長局面では、理想だけでなく現実的な選択や意思決定も求められます。その過程をどう支えるかが、支援側としての大きなテーマだと感じています。

HATSU鎌倉の様子
HATSU鎌倉令和7年度成果発表会の様子

 

無理につなぐのではなく、自然な結節点を探る

拠点間や外部との連携については、どのように考えていますか


町塚さんのアイコン


町塚さん
今は過渡期だと感じています。初期フェーズでは関係者が近い距離にいて、自然に連携が生まれていました。ただ、それがずっと同じ形で続くわけではありません。支援のあり方を含めて、起業家を取り巻く環境は変わっていきます。

無理に連携を進めると、双方にとって負担になることもあります。だからこそ、ニーズや準備状況を踏まえながら、自然に機能する結節点を探っていく必要があると考えています。

 

AI時代にこそ求められる主体性

起業家に求める姿勢について教えてください


町塚さんのアイコン


町塚さん
AIに聞けば答えが返ってくる時代になりました。便利になった一方で、起業家の主体性が弱まる可能性もあります。

HATSU鎌倉の支援では、正解を示すのではなく、自分の内側から考えを引き出す力を育てることを意識しています。「両立の答えはその人自身の中にある」という前提で、ワークも設計しています。


江無田さんのアイコン


江無田さん
起業を目指すチャレンジャーは強い思いを持っていることがまずは大切だと考えています。ただ、思いだけでは事業は続きません。HATSU鎌倉にいる、経験を持った多様なメンターとの対話から学び、それを自分の力に変えて前に進む。その主体性こそが、長期的な成長につながると感じています。

 

HATSU鎌倉はこんな人におすすめ

HATSU鎌倉にはどのような方に参加してほしいと考えていますか


町塚さんのアイコン


町塚さん
社会性と経済性の両立を本気で目指したい人。そして、起業というプロセスを通じて自分自身も成長したい人に来ていただきたいです。

社会に価値を届けながらも、事業としてきちんと成立させる意識を持てる人と一緒に挑戦したいと思っています。


江無田さんのアイコン


江無田さん
「起業に向けて困っていることがある」「想いの実現に向けて、仮説を持って取り組もうと思っている」という場面に直面した人に参加してほしいです。そのときの想いをHATSUで現実のものにしたいと本気で考えるなら、きっと役に立つはずです。

最後に県からメッセージをお願いします


江無田さんのアイコン


江無田さん
HATSU鎌倉や県の支援を「もっと早く知りたかった」という声をいただくことがあります。発信を強化していくことは前提として、文章だけでは伝わらない部分もあります。ぜひチャレンジャーによる成果発表会の場や起業家が参加するイベントといったリアルな現場に足を運んでいただきたいです。
また県だけでなく、市町村や商工会なども含めて、顔の見える関係を広げていきたいと考えています。現場で直接見ていただくことが、何より早いと感じています。
強い思いを持ちながらも、学び続けられる人。自分で考え、自分で進む人にとって、HATSU鎌倉は大きな成長機会になるはずです。

HATSU鎌倉の様子
<プロフィール>
江無田 建善さん
神奈川県 産業労働局 産業部 産業振興課 新産業振興グループ

農地課、森林課、自然環境保全課、県立高校などでの勤務を経験。これらの勤務先で培った現場の経験や人脈を活用し、チャレンジャーの事業構想を実現する支援に取り組む。

町塚 俊介 さん
株式会社あゆみの 代表取締役

慶應義塾大学卒業後、株式会社リクルートを経て独立。自ら西伊豆で高齢福祉と障害福祉を繋ぐ事業を運営しながら、社会起業家支援を行う。神奈川県の起業支援拠点「HATSU鎌倉」の運営や、静岡市の地域活性化起業人としての活動を通じ、社会性と経済性を両立する起業家支援の仕組みづくりを推進。

民間と市町村が運営するコワーキングスペースと連携した「HATSU」関連支援拠点
HATSU鎌倉
HATSU起業家支援プログラム

湘南・三浦半島エリアを中心とした、社会性と経済性の両 立を目指す、かながわ”発”の起業家創出拠点 「HATSU鎌倉」

神奈川県”発”の経済性を伴った社会起業家・インパクトスタートアップ・ゼブラ企業を生み出すエコシステムを運営しています。
鎌倉の起業家創出拠点「HATSU鎌倉」で起業を目指すチャレンジャーを募集しています。

キーワード

興味のあるキーワードを選んで、あなたにマッチする事例を探してみましょう。