「聴く」が企業に求められる理由。「LivelyTalk」がSHINみなとみらい/BAKをきっかけに描く、企業のウェルビーイングの未来。
株式会社Lively 岡 えり
「KANAGAWA STARTUPS」がお届けするインタビュー。神奈川県では県内地域発の起業家を次々と生み出す「HATSU起業家支援プログラム」によって事業化の実現に向けた伴走型の集中支援を行い、起業家の創出を促進しています。今回は、「HATSU鎌倉」の卒業生であり、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム (KSAP)」や「ビジネスアクセラレーターかながわ (BAK)」採択企業でもある株式会社Lively代表の岡えりさんに、これまでの歩みを振り返っていただくとともに、BtoB領域への新たな挑戦についてお話を伺いました。
最初にLivelyTalkの事業内容について教えてください。
私たちは「LivelyTalk (ライブリートーク)」という、オンラインのアクティブリスニングサービスを運営しています。これは「聴くコミュニケーションにチャンスをつくり、孤独を減らす」ことをパーパス (企業の存在意義)としています。
具体的には、話を聴いてほしい人(メンバー)と、プロの聴き手(ホスト) をオンラインでつなぐサービスです。利用者は、ふらっと予約なしで1分から、1分50円からという手軽な価格で利用できます。匿名かつビデオオフでの利用も可能なので、「上司」や「親」といった役割や鎧を脱ぎ捨て、また寝起きのすっぴんでも、寝る前に布団の中からパジャマ姿でも、安心してお話いただけます。
一方、聴き手であるホストは、数千名の応募の中から厳選採用された70名ほどが在籍しています。コーチングや公認心理師やキャリアコンサルタントといった有資格者も多くいますが、私たちは資格の有無よりも、相手のありのままを受け止める「傾聴力」と、相手の思いや考えを引き出す「質問力」といったアクティブリスニングの姿勢を重視しています。
サービスは2022年12月に開始し、約2年間で4千人以上の方にご利用いただいています。日常的に安心して感情を共有できる場所として、皆さんの心の余白を作るお手伝いをしたいと考えています。
LivelyTalkはBtoCサービスからBtoB(EAP ※従業員支援プログラム)領域へ挑戦されています。その経緯やサービス内容を教えてください。
もともとLivelyTalkは、話を聴いてほしい個人 (C)向けのサービスとして運営してきました。しかし、個人の「話したい」「モヤモヤする」といったニーズは潜在的なものが多く、また話を聴いてもらうことで解決できるということが十分に社会に周知されている状況ではなく、単純に広告でアプローチするのが難しいという課題感がありました。
そこで、職業軸で考えたときに、例えばドライバーさんのように個室空間で孤独を感じやすい方々がいるのではないかと考えました。一方で、企業側にも働く人のプレイゼンティズム(出社はしているが不調で生産性が低下している状態)や、アブゼンティズム(働くことができず休職している状態)や退職に対してどうすべきかという課題があり、「働く人のメンタルヘルス」を改善したいというニーズがあり、そこにマッチングすると考えたのがBtoB展開のきっかけです。
現在、私たちが注力しているのは「シームレスEAP (従業員支援プログラム)」という考え方です。多くの企業では、産業医やカウンセラー制度はあっても、利用のハードルが高く、深刻化してからでないと使われない傾向があります。
私たちは、休職してしまう手前のプレゼンティズムの方々にアプローチすることができれば、上司や会社の人に相談しにくいこともケアすることができる。LivelyTalkが、社内の相談窓口より手前の段階、未病の段階で気軽に話せる場所として機能することを目指しています。
AIチャット「ウェルモン」など、新たな取り組みも進んでいますね。
私たちはAIから人へのシームレスな連携を考えています。まず、静岡市の共創プログラムで開発したAIチャット「ウェルモン(ウェルビーイングモンスター)」で気軽にセルフケアをしてもらう。
これは、静岡の老舗お弁当屋さんの人気おでんをキャラクター化するなど、親しみやすくゲーム感覚で使えるように工夫しています。今では、そこから更に進化して、ウェルモンが自己評価(主観評価)だけではなく、心拍データなどの生理指標や、AIとの会話からコンテキスト情報を読み解き、日々のウェルビーイングな行動の支援をするだけではなく、必要な情報やサービスにパスを送るハブの役割をするようになっています。
AIチャットも話し相手になってくれますが、むしろ人間と話したいというニーズも喚起されるので、Lively Talk (聴き手になる人)につなげる。それでも解決が難しい場合に社内の産業医やカウンセラーに繋げていく。この流れをシームレスEAPと呼んでいます。
BAK (ビジネスアクセラレーターかながわ)での国際自動車さんとの取り組みをきっかけにBtoBの可能性が見え、また、BAKのメンター経由で東広島市での導入が決まったり、その実績が評価されて静岡でウェルモンが生まれたりと、またLivelyの共創の取り組みを神奈川県に支援していただいたりと、県の支援を受けながら、どんどん成長できている感覚です。

あらためて、企業に向けた支援を受けた「HATSU鎌倉」での経験は、事業にどう活かされましたか?
当時はまだフリーランスで、起業するかも決めていませんでした。実は薬膳の食事指導とLivelyの「聴く」サービスの二つの案を持っていて、「本当にやりたいのはどっちか」をメンターとの壁打ちで突き詰めていきました。
何もわからない状態の私を「受け入れてくれた」という感覚が一番大きかったですね。メンター陣が親身になって壁打ちに付き合ってくれ、真剣に事業と向き合うきっかけになりました。
その後の「KSAP」はいかがでしたか?
KSAPが採択されたのは、LivelyTalkをリリースした直後のタイミングでした 。支援金100万円を開発費に充てられたのは本当に助かりました 。
それ以上に大きかったのは、起業家仲間の存在です 。同じHATSU同期のカマンの善積さんが先にKSAPに進んでいたり 、採択された仲間たちと「今こういう状況だけど、どうしてる?」と悩みを気軽に聞ける環境が心強かったです 。
また、私たちのサービスは今までにないものなので、KSAPに採択されたという「神奈川県のお墨付き」は、信頼を得る上で非常に重要でした 。
「SHINみなとみらい」はどのように活用されていますか?
「SHIN みなとみらい」は、引き続きメンバーとして随時活用しております。行けない時も、Slackによるオンラインコミュニティは頻繁にチェックしています 。Slackでは自分ではキャッチアップしきれない補助金や勉強会、イベントの情報を流してくれるので、本当に助かっています 。
あとは、私自身が散々助けてもらったので、新しく入ってきたKSAPの方などが「アンケート答えてください」と投稿していたら、できるだけ貢献したいなと思っています 。

今後Livelyのこれからについて教えてください。
現在、1,000件に迫るレビューを通じて、「話すことで自分の強みに気づけた」「モヤモヤが晴れて前向きになれた」「ぐっすり眠れた」という声が多数寄せられています(レビューはコチラ)
自分の話をする体験が、自分の話を聴いてもらう体験が、いかに人の心を動かすか、人の心を癒やすのかを実感しています。この確かな手応えを元に、今後も個人の「メンタルセルフケア」の重要性を個人へ、企業へ、そして社会全体に浸透させていきたいと考えています。
すでに実績のある教員向け共済組合や自治体、企業のEAP導入をさらに加速させ、より多くの人々に届けていくことが目標です。また今後は日本のみならず海外へも展開し、聴くを通じて繋がれる社会をつくっていきたいです。
最後に起業を志す方へのメッセージをお願いします。
ビジネスや経営の知識がゼロだった私でも、神奈川県の支援プログラムは手厚くサポートしてくれました 。子育て中であったり、事業経験がなかったりしても、「想い」があればぜひ挑戦してほしいです 。
特にHATSU鎌倉やSHINみなとみらいのような場所では、一人で悩まずに相談できる仲間やメンターがいます 。KSAPのようなプログラムに採択されれば、「神奈川県のお墨付き」という信頼も得られます 。
そして何より重要なのは、自分自身の「想い」です。その想いを、誰よりも熱く、恥ずかしがらずに、何度でも言語化して伝え続けること 。その情熱が周りの人々を動かし、協力者を引き寄せる原動力になると信じています 。
湘南・三浦半島エリアを中心とした、社会性と経済性の両 立を目指す、かながわ”発”の起業家創出拠点 「HATSU鎌倉」
神奈川県”発”の経済性を伴った社会起業家・インパクトスタートアップ・ゼブラ企業を生み出すエコシステムを運営しています。
鎌倉の起業家創出拠点「HATSU鎌倉」で起業を目指すチャレンジャーを募集しています。
企業情報
株式会社Lively
【事業内容】
- Lively Talk (ライブリートーク)の企画・開発・提供
- LivelyEAPサービス (アクティブリスニングサービス)の提供
- 1on1サービス(アクティブリスニング型コーチング、アクティブリスニング型インタビュー)
- アクティブリスニングスキル教育
【企業サイト】
https://about.lively-talk.com/
【サービスサイト(LivelyTalk)】
https://lively-talk.com