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なぜ神奈川に起業家が集まるのか?支援拠点「SHINみなとみらい」の歩みとコミュニティの全貌

 神奈川県 上野、北林、一般財団法人SFCフォーラム 廣川、株式会社ATOMica 土元

「KANAGAWA STARTUPS」がお届けするインタビュー。
神奈川県が推進するベンチャー支援の中核拠点、「SHINみなとみらい」。ここは単なるワークスペースではなく、県内外の起業家、支援者、行政、投資家らが集い、日々新たな化学反応が生まれるエコシステムのハブとなっています

今回は、SHINみなとみらいの運営に深く関わる中心メンバー、上野さん、北林さん、廣川さん、土元さん、へのインタビューを通じて、その設立背景から、オンラインとオフラインが融合するコミュニティの特色、そして神奈川ならではの支援体制の裏側、今後の展望までをレポートします。

設立の経緯:課題感から生まれた起業家のための「場所」

WeWrokみなとみらいにある「SHINみなとみらい」の拠点

―まず、SHINみなとみらいを設立の経緯ついて教えてください。

上野さん:もともと神奈川県には数十年にわたるベンチャー支援の歴史があり、アクセラレーションプログラムや起業家教育などを行ってきました。その中で、起業家の方々から「起業家が集まる場が欲しい」「支援を受けた後もつながっていられるコミュニティがあるといい」という声をいただいたのが一つの課題感でした。それに応える形で、起業家が集い、交流し、新しい事業を生んだり悩みを相談したりするコミュニティ作りに取り組もうと、この場所が生まれました。

―設立から約6年が経ちましたが、どのような変化や成果がありましたか?

上野さん:始まった当時はコロナ禍と重なったこともあり、場は作ったものの、どうやってコミュニティにしていくか、そもそもどうやって人に集まってもらうかという点で苦労しました。ですが、6年経ち、支援事業の卒業生が残って活用してくれるなど、起業家のネットワークやつながりの幅が広がってきたと感じます。今では、起業家仲間からの紹介で利用を検討される方も増えています。

廣川さん:成果という点では、SHINみなとみらいの支援を通じて、プレシリーズA*などで数千万円〜1億円といった規模の資金調達ができるスタートアップが、今まさに複数出始めています。またBAKなどの参加を経て、大企業との連携プロジェクトが毎年生まれています。そうした企業が生まれる基盤が整ってきたと言えるかもしれません。


*シリーズ〇〇とは、本来は発行する株式の条件が変わることを意味しますが、株式発行による資金調達の進捗段階を表すものとしても捉えられます。シリーズAは、商品やサービスをリリースし、顧客が少しずつ増えていき、徐々に市場に浸透し始める時期を指します。したがって、プレシリーズAは、この少し前の段階と理解されます。

コミュニティの特色:オンラインとオフラインが育むフラットな関係性

―コミュニティマネージャーや現場の視点から、SHINみなとみらいのコミュニティはどのような特徴を感じますか?

土元さん:一番は、皆さんの距離が近いことですね。リアルの拠点での交流に加えて、オンラインコミュニティが非常に盛り上がっているのが大きいと思います。誰かが相談事を投稿すれば、すぐに誰かが反応してくれる。プレイヤー同士が、支援機関や行政の方も含めて皆さんフラットに助け合っているのが、いいコミュニティだなと感じます。

北林さん:オンラインはコミュニケーションの頻度を高めるのに良く、オフラインで対面することで安心感が生まれる。その両軸がうまく成立しているコミュニティだと感じます。孤独に挑戦されている起業家の方々が、同じような思いをした仲間がいる場で安心して事業に集中できる、そんな環境が作られているのかなと思います。

―活発な交流を生むために、どのような取り組みをされていますか?

土元さん:新しく入られた方々のために「紹介ランチ」を設けて、皆さんと顔を合わせる機会を作っています。それ以外にも、イベントとしてだけでなく、日常的に皆で一緒にランチを食べる文化がすでに出来上がっていて、その中で事業の相談などが自然に生まれていますね。

―SHINみなとみらいをどのように発展させていきたいですか?

北林さん:私たちのコミュニティには、オンライン上では300名を超える方々がいます。しかし、まだこのリアルな拠点が常に満員になるほどの熱量を生み出せてはいません。イベントへの参加者だけでなく、より多くの方に「ここに来たい」と思ってもらうにはどうすればいいか。それがまず一つ目の課題です。

そのためには、SHINみなとみらいのコミュニティの良さを発信していき、より広くの方に知っていただくことの大切さを感じています。

廣川さん:スタートアップの成長支援という意味では、フェーズごとの最適化したより細やかな支援ができればと考えています。フェーズに初期段階では、多くの起業家に共通する勉強会などで対応できます。しかし、事業が軌道に乗り始めると、必要とされるのは完全に個別化された、深い戦略的な支援です。それを行政と民間とのバランスでどういう形で提供していくかは、考えていかなければならない課題です。
同時に、私たちの視線は神奈川の外へも向いています。最近では沖縄や山梨の行政担当者が視察に来られるなど、この「神奈川モデル」は全国から注目され始めています。これは単なる成功事例の共有ではありません。神奈川で挑戦することが、社会課題の解決に繋がる。そう信じてくれる起業家が、全国から集まるような流れを創り出したいですね。
施設間・支援者間・支援者と起業家間のコラボレーションをより一層活発にしたいという思いから「コラボ神奈川」という勉強会と交流会を兼ねたイベントも開催しています。より良い支援提供ができるよう、支援者間の連携もより広げていきたいです。

神奈川ならではの支援体制:「日本の縮図」と「顔の見える」ネットワーク

―神奈川県全体のスタートアップ支援には、他の地域と比べてどのような特徴がありますか?

上野さん:神奈川県は、大都市もあれば自然豊かな地域もあり、まさに「社会課題の縮図」のような特徴があります。そのため、神奈川を実証フィールドにしながら社会課題解決に取り組む起業家を増やしていきたい、という全体の思想が県としてあります。また、県の取り組みを、起業前を支援する「HATSU(ハツ)」と、起業後の成長を促進する「SHIN(シン)」に明確に分けて、それぞれのフェーズに合った支援を行っています。

廣川さん:神奈川の大きな特徴は、県内の支援者たちの「顔が見えていて、信頼関係が築けている」ことだと思います。他の地域では支援事業者が数年で入れ替わり、ノウハウや関係性が蓄積されないという話も聞きますが、神奈川の場合はそうではありません。この規模の県でこれだけの連携ができているのは、他にない強みです。その結果、「神奈川のスタートアップに会いたいなら、SHINに行けばいい」という共通認識が生まれてきていると感じます。リアルな場所と、審査制のオンラインコミュニティによる安心感、この2つが揃っていることが大きいですね。

―最後に、これから起業を目指す方へのメッセージをお願いします。

上野さん:起業初期は、多くの人がつまずきやすい共通の落とし穴があります。SHINみなとみらいなどを活用して、先人の知恵や経験をうまく取り入れ、避けることのできる失敗は避けてスピード感を持って成長していってほしいです。一方で、企業が大きくなってきた際には、ベンチャー支援という枠組みだけでなく、県庁の様々な部署や他の自治体、大企業などと連携して、さらに事業を伸ばしていってほしいと考えています。

<プロフィール>
神奈川県 上野 哲也 さん
上野 哲也 さん
神奈川県 産業労働局 産業部 産業振興課新産業振興グループ グループリーダー

神奈川県庁入庁後、企画、県立病院、環境農政、ヘルスケア産業等の職務を経験し、2020年から産業振興課でベンチャー支援業務を担当。ベンチャー支援のかながわモデル「HATSU-SHIN KANAGAWA」として社会課題解決に取り組むベンチャー企業の支援を行い、ベンチャー交流拠点「SHINみなとみらい」やベンチャーと大企業の連携支援事業「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」により、企業間の共創推進に取り組む。

神奈川県 神奈川県 北林 佑幸 さん
北林 佑幸 さん
神奈川県 産業労働局 産業部 産業振興課 新産業振興グループ 副主幹

神奈川県庁入庁後、用地交渉、物品調達、官民連携プラットフォーム構築、コミュニティの再生・活性化等の職務を経験し、2025年から産業振興課でベンチャー支援業務を担当。ベンチャー交流拠点「SHINみなとみらい」の運営のほか、ベンチャーと行政の連携支援事業「エール“ガバメント×ベンチャー”アライアンスかながわ(YAK)」や起業やベンチャー企業に係る情報発信に取り組む。

一般財団法人SFCフォーラム 廣川 克也 さん
廣川 克也 さん
インキュベーションマネージャー / 一般財団法人SFCフォーラム

銀行職員などを経て、慶應SFCにて起業支援、起業教育、ベンチャー投資を担当。企業や自治体での人材育成、コミュニティ作りを多数手がけるほか、山形大学客員教授や株式会社キングジムの社外取締役を務める。長年にわたり起業・ベンチャー支援を行ってきた経験を活かして、ベンチャー企業を支援。

株式会社ATOMica 土元 直 さん
土元 直 さん
コミュニティマネージャー / 株式会社ATOMica

国内ベッドメーカーで営業・商品企画を経験後、ファイナンシャルプランナーとして横浜に事務所を設立。現在は株式会社ATOMicaに参画し、SHINみなとみらいのコミュニティマネージャーとして、コミュニティ形成を軸に、人と人をつなげることや出会いと共創の機会を生み出すことに取り組み、企業や自治体と連携しながらベンチャー支援に取り組んでいます。

神奈川県のベンチャー企業の成長促進拠点
SHINみなとみらい

新しい社会をともに創る。かながわビジネスコミュニティベンチャー「SHINみなとみらい」

神奈川県では、WeWorkオーシャンゲートみなとみらいにおいてベンチャー企業の成長促進拠点「SHINみなとみらい」を運営し、ベンチャー企業に対して、行政や大企業等との交流・連携機会の提供をはじめ、様々な成長支援を行っています。

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