融資の手前で、地域とつなぐ。横浜銀行 畑さんに聞く、「はまぎん財団 Frontiers」と地方銀行だからできる伴走支援
株式会社横浜銀行 地域戦略統括部 畑 翔太
株式会社横浜銀行は、公益財団法人はまぎん産業文化振興財団を通じて、社会課題の解決や研究シーズの社会実装を目指す起業家・研究者を支援する助成金事業「社会実装化助成金 はまぎん財団 Frontiers」を2020年度から実施しています。
神奈川県内のスタートアップ支援には、行政だけでなく地域金融機関も深く関わっています。銀行による支援といえば「融資」や「出資」が一般的ですが、助成金の交付や自治体・地域企業とのマッチングや共創プロジェクトの創出など、より柔軟で伴走型の支援が行われています。
本インタビューでは、株式会社横浜銀行 地域戦略統括部 兼 公益財団法人はまぎん産業文化振興財団の畑 翔太さんに、銀行がスタートアップ支援に取り組む理由や、取引の有無を問わない橋渡しの考え方、はまぎん財団 Frontiersの現在地についてお伺いしました。
横浜銀行と神奈川県のスタートアップ支援との接点について教えてください
畑さん:横浜銀行と神奈川県は、定期的に人材交流を行っています。私自身、2020年に行内公募制度に手を挙げ、県に出向したのが最初のきっかけです。
ただ、その公募ではスタートアップ支援とは直接の関連が深くはない「企業誘致・国際ビジネス課」への配属でした。企業誘致は、まちづくりやファイナンスにもつながることから銀行業務との親和性が高いこともあり、最初の1年間はその部署でがむしゃらに企業誘致に関する営業活動をおこなっていました。
そんな中、1年目が終わる少し前に「スタートアップ支援の部署に行ってくれないか」という話をいただき、当行で初めて産業振興課のベンチャー支援を担当するグループに移り、銀行員としてベンチャー・スタートアップ支援に関わりはじめた、というのが経緯です。
背景には、新産業の振興は、銀行にとっても関心が高い分野であり、ノウハウや仕組みを学ぶことで銀行のできうる役割を探索するという狙いがあった(ある)と聞いています。そこから、「SHINみなとみらい」や「BAK」といった県の取り組みについて、行内で話をする機会が増えていきました。(なお、2026年現在にわたっても、ベンチャー支援グループに当行行員が出向しています。)
起業家やスタートアップに対してどのような支援をされているのですか?
畑さん:創業融資やベンチャーデット、エクイティファイナンスといった銀行本来の投融資業務は別の部署が担当しています。現在、私が担っているのは、主にシード~アーリー期を対象とした助成金業務とマッチング業務の二つです。
現在、私が所属している地域戦略統括部は神奈川県内を6つの地域に分けて、各地域の特色に応じた地域活性化・地域創生に関する活動を行う本部の企画部署です。企業・自治体・大学などをつなぎ、時には横浜銀行も一緒に新しい仕組みや企画を立ち上げることで、まちづくりや観光・産業振興の支援に取り組んでいます。
自分たちが主体となって何かをやりきるというよりは、さまざまな組織と組織、人と人とをつなぐ橋渡し役、ハブ(HUB)として動くことを意識している部署です。スタートアップ企業は革新的な技術やサービスを有し、日々挑戦を続けています。その一方で、R&D領域における課題を抱えていたり、新たに外部資源との連携を考えていたりする地域企業も少なくありません。私たちはそうした地域企業とスタートアップ企業を結びつけたいと考えています。
横浜銀行は、自治体や地域企業との強力なネットワークを持っていますので、神奈川県や各市町村とも連携しながら課題解決をサポートする。こうした橋渡し役を務める機会が、私の活動のなかで最も大きな割合を占めています。
幅広い橋渡しを銀行が取り組む意義はどこにあるのでしょうか?
畑さん:もともと銀行は、取引先同士をつなぐビジネスマッチング業務を本業として行っています。ある製品・サービスを製造・保有している企業と、それを活用したい企業を紹介してつなぐ、といったことですね。ただ、その対象は取引先が中心であり、創業して間もないなどを理由に、横浜銀行との取引が無いスタートアップ企業のサービスまでは手が届いていないのが現状です。
一方で、私の活動は、自治体や大学、当行の各支店が取引をしている地域企業と連携して、共創事例を生み出したり、地域活性化を目指したりすることです。こういった活動の中で、革新的なスタートアップ企業についてご紹介すると、「勉強になった」「こんな企業があるとは知らなかった、ぜひ次のイベントで技術やサービスを活用してみたい」などと、喜んでいただけることが本当に多いです。スタートアップ企業側にとっても初期段階の実績につながる可能性もありますので、双方にとって良いご縁となればという想いで活動を続けています。
それは、横浜銀行と取引のある企業に限らず、ということでしょうか?
畑さん:はい、特に限りません。神奈川県内の自治体が支援していたり、また私自身が個人的につながりのあるスタートアップ企業など、当行との取引の有無にかかわらず、ご紹介しています。
相手先の課題やニーズ解決に繋がり喜んでいただけるものであれば、取引があるかどうかは関係ありません。
直近でも、あるビジネスコンテストに登壇していた神奈川県外のスタートアップ企業の環境をテーマとする技術・サービス内容に関心を持ち、県内の大学の産学連携コーディネータに紹介しました。同大学の研究領域とのコラボレーションにより、神奈川県内にそのサービスを普及させることで地域に変革をもたらそうと取り組んでいたりします。
そのスタートアップ企業と当行の間には取引があるわけではありませんが、多様なネットワークを持つ立場だからこそ、自身の経験とノウハウを駆使しながら(一種の妄想を描きながら)、HUB役となって様々な方につないでいくことは、横浜銀行の「私」だからこそ果たせる役割・意義だと考えています。
地域金融機関だからこそ提供できる価値は、どういうところにあると考えていますか?
畑さん:ホームマーケットである神奈川県と東京都を中心に法人のお客さまを25万社ほど抱えていますので、ネットワークの広さには自信があります。このエリアで活躍されている企業のみなさまとの関係性の広さ・深さこそが地域金融機関として提供できる最大の価値だと考えています。
神奈川県内には多くの金融機関があります。メガバンク、地方銀行、信用金庫、それぞれで強みが異なることから、取引している企業の特徴も異なっています。その中で、横浜銀行の取引先は、外部連携が可能な経営資源・リソースを持ち、かつ、地域のために前向きに動いていただける企業規模の経営者の方が多いように感じています。
スタートアップ企業は、具体的にどのように相談するとよいでしょうか?
畑さん:「私たちはこのようなビジョンのもと、このような事業を通じて社会的インパクトを生み出そうとしているが、現在ここのパーツが足りない。解決できると、地域社会や県経済にとっても良い取り組みになる」など、熱い気持ちで事業内容を教えていただき、「この企業・この自治体のこの課・この大学のこの方を紹介してほしい」などとお話しいただけると嬉しいです。
融資や出資でのご協力はまだできない場合でも、そこに至るまでに何ができるかを一緒に考えたいです。「ここが足りない」「この企業にヒアリングしたい」といったご相談は、是非、遠慮なくお寄せいただければと思います。
「はまぎん財団 Frontiers」は今年で第7回です。回を重ねるなかで感じている変化を教えてください
畑さん:この取り組みは、社会課題の解決や研究シーズの社会実装を目指す起業家・研究者を支援する事業で、採択された場合には、申請いただいた研究・事業に対して、最大500万円の助成金を交付します。私は第4回から本格的に関わっていますが、年々応募件数は増えています。神奈川県内で、新たな技術・サービスの社会実装に挑戦したいと考えている方の総数が増えていること自体、大変意義深いものと感じています。
それに伴い、応募いただく研究・事業の分野の幅も広がりました。大きくスケールアップを目指す方もいれば、地域をより良くするために社会課題を解決したいという方もいます。助成金の認知が少しずつ広がり、さまざまな業種から多様な想いをお持ちの方が集まるようになったことを、回を重ねるごとに感じています。
また、第5回からは「研究開発型」と「ベンチャービジネス型」の2部門制を採用していますので、現在のフェーズに応じてご応募いただけるようにもなりました。
なお、要件を満たす限り再度のご応募も問題ありません。過去、前回の申込と異なる部分やアップデートされた部分をお示しいただき、ご受賞に至った方もいらっしゃいました。
第7回はこれまでとの違いはありますか?
畑さん:第7回の助成金事業の募集要項などは大きくは変えていませんが、銀行としての受賞後のフォローアップに対するスタンスは少し変わってきていると思います。
これまで、助成金を交付した後のフォロー体制に課題を感じていました。同様の助成金を実施する他の金融機関にヒアリングを行った際にも、各社同じ課題を感じていました。本来、銀行は、研究開発段階やシード期の企業に対しては融資を実行しづらいところがあります。それが本助成金を始めた経緯にもつながるのですが、助成金交付後から本業による支援までの間にはまだまだ大きな溝(ギャップ)があります。そこを少しでも埋めるために、マッチングによる支援と横浜銀行グループの「横浜キャピタル(ベンチャーキャピタル)」との連携による助言などの活動に注力しようと、今年から本格的に取り組んでいます。採択企業の今後の事業拡大につながるよう、グループ力を総動員して伴走支援ができればと考えています。
また、今年から最終選考会をオープン形式とする予定です。自治体や支援機関のみなさまをはじめ、地域企業のみなさまにもお越しいただくことで、「共創」や「オープンイノベーション」に発展するきっかけの場づくりにも挑戦します。地域ぐるみで全力で起業家を応援する「かながわ」。そんなイノベーションエコシステムをこの地から生み出していきたいです。
どのような起業家に応募してほしいですか?
畑さん:私たちも全力で応援したいと思える圧倒的な熱意をお持ちの方にご応募いただきたいです。
「まだビジネスとして形になっていないから」「パートナーが見つかっていないから」「まだ売上(の見通し)が立っていないから」などと応募を見送られるのではなく、ご資金が本当に必要なタイミングの方にお渡ししたいと思っておりますので、是非、現時点での研究・事業に対する「熱意」をお聞かせいただけますと幸いです。(前述のとおり、要件を満たせば再度のご応募も可能です。)
最後に、これから挑戦する起業家へのメッセージをお願いします!
畑さん:「はまぎん財団 Frontiers」は、銀行単体の取り組みではなく、「地域全体でみなさまをご支援するきっかけとなる助成金」として位置付けていただけるとうれしいです。
今後も、年1回実施していく予定ですので、社会課題の解決や革新的な事業・研究の社会実装を目指している起業家のみなさまからのご応募をお待ちしております。
【第7回「Frontiers」詳細・応募はこちらから】(2026年10月31日締め切り)
企業情報
株式会社横浜銀行
【支援内容】
株式会社横浜銀行 地域戦略統括部:地域活性化を目的とする自治体・大学・地域企業との連携支援や共創事例の創出
公益財団法人はまぎん産業文化振興財団:社会実装化助成金事業「はまぎん財団 Frontiers」の運営
【機関サイト】
株式会社横浜銀行:https://www.boy.co.jp/
公益財団法人はまぎん産業文化振興財団:https://yokohama-viamare.or.jp/

