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下水道のない離島の排水課題に、微生物で挑む。「BAK・YAK」採択の株式会社水と古民家 × 横須賀市が汚泥分解技術を実証実験

株式会社水と古民家 岩澤宏樹、横須賀市公園緑地課 馬賀椋平

株式会社水と古民家と横須賀市は、2025年度、神奈川県のオープンイノベーション促進事業「BAK・YAK」に採択されたプロジェクトとして、猿島で微生物製剤(バイオ剤)による汚泥分解技術(浄化槽汚泥減容)の実証実験に取り組みました。

下水道が届かない地域の生活排水は、浄化槽が受け止めています。全国で約1億人が下水道を利用する一方、下水道につながっていない人口は約2,200万人。その分散処理の主役である浄化槽などからは年間約2,000万トンの汚泥が発生し、し尿処理には年間2,000億円を超える費用が投じられています。人口減少による下水道維持費の増加、担い手不足、処理施設の老朽化など、水インフラの維持にはさまざまな課題があります。


横須賀の無人島・猿島も、その課題を抱える現場のひとつでした。横須賀市が所有し、三笠ターミナルから船で約10分。国史跡の旧要塞跡を歩ける観光地として年間20万人以上が訪れますが、島に下水道はありません。トイレを支える2基の浄化槽に溜まった汚泥は、台船にバキュームカーを載せて海を渡り、引き抜くほかありませんでした。

本インタビューでは、株式会社水と古民家 代表取締役の岩澤宏樹さんと、横須賀市公園緑地課の馬賀椋平さんに、離島の排水課題について、神奈川県のオープンイノベーション促進事業「BAK・YAK」での取り組みをお伺いしました。

事業内容や取り組みについて教えてください

岩澤さん: 私たち水と古民家は「環境負荷が低く心豊かな暮らしを、未来の当たり前に。」というビジョンのもと、環境負荷を低減する事業展開の1つとして、水質汚濁の問題解決に向けた微生物を使って浄化槽などの汚泥を発生元で分解・削減していく「汚泥分解技術」の活用に取り組んでいます。

「引き抜かず、運ばず、処理せず」。これまではバキュームカーで引き抜いて処理場まで運ぶほかなかったのですが、それを変えられる可能性のある技術が登場し、技術元と協業しながら、特に適用が難しい浄化槽の領域に挑戦しています。

背景として、現在は人口減少により下水道の維持管理費が急増し、下水道から浄化槽へ転換する自治体が増えています。一方で浄化槽には汚泥の問題があり、担い手不足や処理施設の老朽化も進んでいます。このままでは地方の水環境が悪化してしまう。「汚泥分解技術」を活用することで汚泥の問題を解決できれば、将来のインフラ破綻を回避できるのではないかと考えています。

図:猿島における浄化槽汚泥削減・臭気改善
図:猿島における浄化槽汚泥削減・臭気改善

「汚泥分解技術」について教えてください

岩澤さん: 私たちが取り組む「汚泥分解技術」でキーとなるのは汚泥分解菌という特殊な微生物群です。汚泥は硬い殻のような細胞壁に囲われているのですが、それを破ることで中の有機物が出てきて、通常の菌が食べられるようになります。水処理業界では「汚泥分解はまずありえない」と言われてきた領域ですが、実際に実績が数多く出てきている状況です。

空気を好む好気処理では一定の再現性が確認できている一方、浄化槽の前段は働く微生物群がまったく異なる嫌気性の環境で、そもそもバイオ剤が使えるのかも分からないところからのスタートでした。技術元は主に大型の処理施設を手がけており、弊社は中型・小型の領域を担っています。小さい領域は手間がかかる割に収益につながりにくく、処理方式も異なるため難易度が高い。そのため、これまで誰も取り組んでこなかった領域なんです。

図:技術的実現性の検証イメージ(2槽比較実験)

創業のきっかけについて教えてください

岩澤さん: 大学までは政治経済を学んでいて、地球規模の不公平性、たとえばCO2を大量に排出する一部の人たちの負の影響が、排出していない人たちに及んでいる構造に疑問を持ったのが原点です。中でも水処理にフォーカスしたのは、原体験によるところが大きいですね。子どもの頃に遊んでいた川が、大学生の頃にはもう遊べなくなっていた。叔母から「あそこで遊ぶ人もおらんくなったね」と聞いたときは、かなりショッキングでした。

調べてみると、水質汚濁の汚染源は生活排水が半分以上を占めて最大で、今も約1,000万人分の排水が未処理のまま流されています。見えない課題がこれほどの規模で存在することに気づき、解決できる技術を探す中で今の技術に出会い、創業に至りました。

株式会社水と古民家 代表取締役の岩澤宏樹さん
写真:株式会社水と古民家 代表取締役の岩澤宏樹さん

横須賀市との実証実験の取り組みについて教えてください

馬賀さん: 横須賀市が所有する猿島は無人島でありながら年間20万人以上が来る観光地で、トイレの浄化槽2基は法律上、年1回以上の引き抜きが必要です。ただ離島なのでバキュームカーは陸路では来られず、台船に載せてホースを浄化槽につないで引き抜く。そのコストが1回400万円ほどかかります。

作業日は1日休園になるため閑散期の冬にやるのですが、冬は海が時化て何度も延期になる。1月の予定が2月、3月とずれて年度をまたぎ、結局1年飛ばしたこともありました。業者も少ないうえそんな状況が続くため維持の難しさと費用の高騰から、培養剤のような別の手段がないかを探し始めたのがそもそものきっかけでした。

写真:猿島(横須賀市)での実証実験の様子
写真:猿島(横須賀市)での実証実験の様子

実証実験の結果はいかがでしたか?

岩澤さん: まず、浄化槽に浮いていた汚泥がなくなりました。実証実験は非常にシンプルで、バイオ剤を投入して混ぜる。投入後に撹拌装置を取り付けて空気を供給し、微生物が働きやすい環境を整えモニタリングする。それだけなんです。

「下に沈んだだけではないか」という見方もできますので圧の変化も測っており、結果はおおよそ横ばいから微減。途中で2基のうち1基が使えず利用が集中し、負荷が通常より一気に増えた期間があっても、この傾向が維持されています。汚泥量としては4〜5割の減少を確認できました。投入は月1回程度です。投入から数日で分解が進み、毎日の流入で増えては、また投入で減る、という推移を経て、最終的に横ばいか減少の傾向に落ち着いていきます。

一般的な汚れの指標であるBOD(生物化学的酸素要求量 / 出典:環境省)は、浄化槽ではおおよそ20mg/L以下が目指すべき基準ですが、実測値は2や4と非常に低い値が続いており、有機物の除去はきちんとできています。窒素分は一時期増えましたが、現在は下がって落ち着いています。

官民連携の実証実験について、横須賀市として成果や気づきはありましたか?

馬賀さん: 横須賀市として、まずコストの削減自体が成果と感じています。実際に800万円を削減しました。

また、付随した成果も大きいと感じています。行政は1年に1回、予算をつけて時期が来たら執行する、という進め方をするので、どのくらい汚泥が溜まり、どのくらい引き抜いたのかという実態をそもそも把握していませんでした。今回初めて「こんなに溜まっているんだ」「この時期はまだこのくらいなんだ」と把握できて、そのうえで業務を実施するかどうかを検討できるようになった。これはかなりの成果だと思っています。

もうひとつ、猿島は文化財に登録されていて工事が容易にできません。今回の提案は工事が不要だったことも、導入につながりました。

写真:横須賀市 馬賀椋平さん
写真:横須賀市公園緑地課の馬賀椋平さん

今回の実証実験の取り組みで得たことを教えてください

岩澤さん: 今回、実証実験を経て猿島で「できました」と言えるようになったこと、何より実績を作れたことが大きいです。

「できると思います」と「できました」は、まったく違いますので。横展開という意味では、汚泥の処分に高額な費用がかかっている離島や山岳部に可能性が高いと考えています。

実際にヒアリングを進めていくと、たとえば沖縄は非常にニーズが高い地域です。人口増加率が東京に次いで全国2位である一方、処理施設はすでにキャパオーバーで、清掃業者さんも大変な状況に置かれています。そのため沖縄では、清掃業者さん自身が「汚泥が減るならとても助かる」とおっしゃっていました。

場所によりますが、自治体側のコストを試算するとおよそ50%以上下がります。猿島のように高額な費用がかかっている現場であれば、60%以上下がる可能性もあります。この技術は基本的にコストが下がる方向に働くため、自治体が予算を追加で確保しに行く話にはなりにくく、導入のハードルも低いと考えています。

自治体以外に、事業者向けのニーズとして宿泊施設やサービスエリアなども考えられます。浄化槽は年1回以上の清掃、つまり引き抜きが法律で義務づけられているため、清掃頻度が多い施設であればニーズがあります。

浄化槽の汚泥減容と効果について
図:浄化槽の汚泥減容と効果について

今後の取り組みについて教えてください

岩澤さん: 沖縄や鹿児島の島嶼部、特に小規模離島や自衛隊の駐屯地などに活用できるのではと考えています。

水資源が限られていて、シャワーの水を別の島からタンクで運んでくるような手間がかかっている。そこに排水再利用が生きてきます。シャワー水の再利用に加えて、浄化槽の放流水を水撒きに使う、といった展開について可能性を感じています。

従来こうした場所は膜処理だけで対処していましたが、生活排水をそのまま膜にかけるとフィルターが1日で汚れてしまい、交換のコストと廃棄物の面で現実的ではありませんでした。前段に生物処理槽を入れてある程度きれいにしてから膜処理にかければ、フィルターの交換頻度を大きく下げられると考えています。私たちが実施した試験の結果、前処理を入れたほうが膜の負荷を抑制できることが分かってきたことも大きな要因です。

ニーズの高いターゲット(畜産・し尿処理施設)
図:ニーズの高いターゲット(畜産・し尿処理施設)

オープンイノベーション「BAK・YAK」の取り組みについて感想を教えてください

岩澤さん: 「BAK・YAK」として2週間に1回、事務局と進捗管理を行い、メンターとは期間中に計3回ほど面談しました。内容は今後の事業展開に関するものが多かったですね。

実証実験においてはうまくいったことが多くあった反面、初めてだったこともあり、いくつか反省点もありました。たとえば試験設計で、水質検査の項目を必要最小限にして始めてしまったこと。最初から充実した検査項目にしておけばよかったということがあり、実証実験をやったからこそ分かる課題も出てきました。多くの場合、ご理解いただくまでに時間がかかります。全国で2,300億円(出典:環境省)かかっているとお伝えしても、浄化槽担当の方は基本的に維持管理のための業務しか把握されていないため、課題を感じにくいんです。

横須賀市さんは特殊な事情があったからこそ、前のめりに取り組んでいただけました。ですので今は、すでに大きなペインを抱えている離島などの自治体を探しています。

写真:「Kanagawa Innovators Day Meetup Fes 2026」のプレゼンテーションの様子

最後に、「BAK・YAK」の活用を検討している自治体・企業やこれから起業する方へのメッセージをお願いします!

写真:横須賀市 馬賀さん(左)、水と古民家 岩澤さん(右)

馬賀さん: 今回、神奈川県のオープンイノベーション「BAK・YAK」を利用してよかったのは、本質的な課題を見ることができた点です。もともとは、立地の特殊性から業者を探すことの難しさがある、という課題感でした。それが自治体連携の「YAK」に応募するとなったときに、汚泥を減らして引き抜きをしない、そういう考え方もあるんだと思えました。行政レベルだと、今やっているものをどう続けるかまでしか考えないことが多い。もっと本質的に、もともとの業務自体をなくせたらいいのではないかと考えられたことが、一番の収穫でした。

応募を考えている自治体に伝えるなら、課題を一緒に発見してくれる事業者に出会える、ということです。今回も岩澤さん以外に複数社からも提案をいただき、そういう技術もあるのかという発見になった。思いもよらない発想の弾みにつながるので、そこを生かしてもらえたらと思います。

岩澤さん: 離島・山岳部を抱える自治体の方々は、ぜひお声がけください。それから、「BAK・YAK」の活用を考えている起業家の方へお伝えしたいのは、採択されてから事業や実証実験を進めるのではなく、最初から走らせたことが結果的によかった、ということです。自費を投じてでも、まずはやってみる。それが次の前進につながる大切な姿勢だと思います。

神奈川県発オープンイノベーション促進事業
BAK
「BAK(バク)=ビジネスアクセラレーターかながわ」

「BAK」は、県内に拠点を持つ大企業等とベンチャー企業の連携によるオープンイノベーションの創出を目的とした取組です。企業、研究機関、支援機関などが参画する協議会「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」として、新たな連携プロジェクトの創出やコミュニティ形成を通じた共創の取組を推進しています。

YAK
「YAK(ヤク)=エール“ガバメント×ベンチャー”アライアンスかながわ」

「YAK」は、県や県内市町村とベンチャー企業の連携によるオープンイノベーションの創出を目的とした取組です。自治体とベンチャー企業のマッチングや実証事業の支援などを通じて、連携プロジェクトの創出と事業化を促進し、ベンチャー企業の成長促進と多様化する行政課題の解決を目指しています。

企業情報

株式会社水と古民家

株式会社水と古民家

【事業内容】
小規模排水設備における汚泥減容・水質改善
古民家再生・復元

【企業サイト】
https://mizu-kominka.co.jp/

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