サウナ導入は宿泊施設をどう変える? 株式会社Vanwavesが相模原アクセラレーションプログラム(SAP)で挑んだ実証と得られたもの
株式会社Vanwaves 深田 渚央
株式会社Vanwavesは、サウナの企画・設計・施工から、導入後のPR・販促支援、自社製品の開発までを一気通貫で手がける企業です。
ここ数年、サウナは個人の趣味の領域を超え、宿泊施設にとっての設備投資の対象になりつつあります。貸別荘、民泊、旅館、ビジネスホテル。さまざまな動機からサウナの導入を検討する事業者は増えています。
一方で、「サウナを入れると、実際にどのような効果があるのか」を数字で語れる事例は多くありません。導入を決める側にとっては、期待される効果の根拠が見えづらいという課題があります。
こうした課題解決への取り組みとして、相模原市の「相模原アクセラレーションプログラム(SAP)」の採択をきっかけに、地産地消のログサウナの開発・設置、および宿泊施設への導入効果の実証実験に取り組みました。
本インタビューでは、株式会社Vanwaves 代表取締役の深田 渚央さんに、相模原アクセラレーションプログラム(SAP)での取り組みについてお伺いしました。
事業内容や取り組みについて教えてください
弊社は、サウナの製造・販売を軸に、外構・エクステリア、そして宿泊業と、大きく3つの事業を展開しています。
サウナは、テントサウナから始まり、いまは木製のタイプや、他の素材・仕様を使ったタイプまで広がりました。サイズもどんどん大きくなっています。社内に大工もいますし、図面を描ける設計士も、パーツやデザインを描ける人間もいるので、企画・設計・施工まで基本的にすべて自社でできる状態になっています。
お客様の内訳は、いまはBtoBが7〜8割、BtoCが2〜3割です。創業から最初の3年ほどは、まったくその逆でした。
BtoCは、文字どおり個人宅への設置ですね。「サウナをつけたいんですけど、どうしたらいいですか」と、直接ホームページからご相談をいただきます。
BtoBは2パターンあって、主軸は宿泊施設です。貸別荘や民泊、旅館、ビジネスホテルのオーナーさんが、客室の単価を上げたい、稼働率を上げたい、物件の価値をプラスさせたい、という目的で導入されます。もう一つがハウスメーカーさんや工務店さんで、「サウナ付き物件」として他にはない提案をしたい、差別化したい、というご依頼です。不動産会社であれば、それで付加価値をつけることもできます。
創業のきっかけについて教えてください
創業は2020年3月で、いとこと2人で会社をつくりました。いまは7期目になります。
もともと学生時代から旅行が好きで、なかでも車中泊の旅が好きだったんです。自分で車を改造して日本一周をするようなこともしていました。アメリカなどでは、車をかっこよくしつらえて自由に暮らすスタイルを「バンライフ」と呼びます。資本主義的な贅沢に対するカウンターカルチャーとして出てきた考え方で、こういう生き方、ライフスタイルはかっこいいなと思って、それを仕事にしようと。それでキャンピングカーのレンタル事業から始めました。
サウナと出会ったのは2018年から2019年ごろで、テントサウナというものを知りました。最初は、キャンピングカーを借りてくださったお客様に「このテントサウナもどうですか」とお貸しする、というところから始めています。
会社をつくる前は、イオンの子会社であるイオンファンタジーで、子どもの遊び場やゲームセンターの運営に携わっていました。それを海外でやっていまして、東南アジアにイオンがどんどん出店していくタイミングで、インドネシアのジャカルタに駐在していたんです。ショッピングセンターにテナントを入れて、店舗を増やしていく仕事でした。
実はインドネシアにもサウナがあって、私はめちゃくちゃ行っていたんですよ。すごく人気で、中華系の方を中心にサウナ好きも多くて、家の近くにもありました。海外駐在って刺激的で楽しいんですけど、肉体的にも精神的にもタフさが必要で。商習慣も、商売のやり方も、時間の規律も感覚が違うので、コミュニケーションに悩む場面もありました。そんなときに、自分のよりどころというか、セーフティネットのように自己内省できる場所が、私にとってはサウナだったんです。
そういう自分の体験もあったので、好きなことで事業をつくりたいと思って、サウナ事業を広げていきました。
創業期から現在まで、事業や体制に変化はありましたか?
最初は仕入れて売るスタイルだったのですが、半年ほどでやめました。
当時はコロナ禍でアウトドア市場は伸びていたのですが、マーケットのサイズを普通に考えたときに、やはり住宅市場のほうが大きいよねと。それに、テントサウナが技術的にものすごく難易度が高いかというと、別にそんなことはないなと思ったんです。これは自社でつくってポジションを取ったほうがいいと考えて、自分でつくり始めました。
周りの仲間や友人を呼んで図面を描いてもらって、私は最初にスケッチを描いてつくる、というところからのスタートでした。そこからどんどん広がって、いまの体制になっています。
相模原アクセラレーションプログラム(SAP)に参加した経緯を教えてください
正直にお話しすると、相模原市さんとのご縁でプログラムを知ったのがきっかけです。
相模原は都心からのアクセスが良い一方で、木材をはじめとした地域資源や豊かな自然があり、貸別荘や民泊などの宿泊施設もあります。また、一定の人口規模があり、自然エリアと都市部の両方にアプローチできる点にも可能性を感じました。
そうした相模原市の持つリソースと、弊社が取り組んでいた事業との相性が良かったことから、プログラムへの参加を決めました。
結果的に3年連続で参加させていただき、1年目と2年目はサウナ事業、3年目はペットシャンプー事業で取り組んでいます。
「SAP」ではどのような取り組みを行ったのですか?
大きく実証実験と製品開発の2つです。
1つ目が、宿泊施設におけるサウナ導入効果の実証実験です。それまでは個人ユーザーの自宅が中心だったので、宿泊施設にサウナを入れることで、どれだけ稼働率が上がるのか、どれだけ客室の単価を上げられるのか、サウナがあるかないかが「泊まる/泊まらない」の判断にどこまで影響するのか。そういった検証を、相模原市内のグランピング施設で行いました。
使ったのは、さがみはら津久井産のヒノキと、大田区の町工場と共同開発した国産サウナストーブ「IRORI」です。せっかくなので相模原の木材を使ったサウナをやりましょう、ということで、地産地消のログサウナをつくって導入しました。
導入前には、「サウナがあったら泊まりたいと思いますか」といったアンケートでニーズ調査も行いました。決める側からすれば、サウナを入れることでどんな効果が期待できるのかを知りたいはずなので、その根拠となるデータを、相模原市さんの力を借りながら見つけていったかたちです。
2つ目が、「KUMIKA」という製品の開発です。これはどちらかというとご自宅向けなのですが、ライフステージによってサウナの必要性は変わりますし、状況によってはサウナをサウナ以外のものに変換できたほうがいい。もう少し抽象度を上げて、家族のための健康設備のようなものにしないといけないな、と思っていたんです。サウナのままだと、サウナ好きにしか刺さらないものになってしまうので。
KUMIKAは、レゴブロックのように拡張したり、他のものに変容させたりできる、可変・カスタマイズ可能なモジュールです。基本はサウナなのですが、あるときはそのボックスがテレワークブースになり、少し組み替えると棚になる。またずらすと子どものベッドのようなものにもできる。状況やライフステージに合わせて可変できるアイテムをつくろうとしました。技術的な試行錯誤もいろいろありましたね。
これは、相模原市内のハウスメーカー・ビルダーさんのモデルルームに一度設置させていただいて、お客様のニーズや、どういう使い方があるといいか、買いたいと思うか、といったヒアリングを実証実験として行いました。
「SAP」に参加して良かった支援やメリットについて教えてください
大きく2つのメリットがあります。
1つは、相模原市の看板があることで、コネクションを一気につくっていただけたことです。実証実験で導入した施設は、最終的に実際にご購入いただきました。運営されているのは富士急行さんで、富士急ハイランドを運営されている会社です。そういうところとの面談を、いきなりセッティングしていただいた。
設置にあたっては保健所をはじめ行政の窓口にも掛け合わないといけなかったのですが、その辺りをうまくつないでいただいて、コミュニケーションを翻訳してもらうようなこともしていただきました。バックアップがあると、物事がスムーズに前に進みやすい。ここは支援として非常にありがたかったところです。
しかもこれは、寄贈ではなく営業としてきちんと受注していますので、シンプルに利益にもなりました。プレスリリースにもご協力いただいています。
もう1つは、金融機関とのコネクションができたことです。相模原では、きらぼし銀行さんをはじめ、これまでなかった金融機関とのつながりができて、融資相談などのコミュニケーションが取れるようになった。これは大きかったですね。
金融機関の方に事業の話をしても、不動産業のようにわかりやすいものならまだしも、サウナ事業のマーケットや売り方はピンとこないと思うんです。そういうときに、アクセラレーションプログラムに採択されている、支援を受けているかどうかで、担当の方の見え方が変わる。「ここである程度認められているなら、筋のいいビジネスなのかな」と判断してもらえるので、融資の確度を高めてくれると思います。
SAPの参加前と後で、事業としてどのような変化がありましたか?
一番は、信用がついたことですね。相模原市のプロジェクトとして取り組んでいる、ということが対外的に伝わりますし、木材利用推進の補助金も活用しました。ああいったものは採択企業の名簿が出ますから、どこの会社が採択されたのかが見えるようになります。
あわせて支店登記も行いました。大手企業と取引をする際に、導入事例として信用感を醸成することができた。これはプラスに働いたと思います。
メディアの面も大きいですね。地元の木材を活用した地産地消のサウナをつくったということで、話題として取り上げていただけました。テレビ東京やNHKなど、テレビの取材もちょこちょこ来ています。
さがみはら産業創造センター(SIC)の支援について教えてください
入居した経緯としては、補助金を使うために支店登記をしなければならないという条件がありました。では、どこに登記するかとなったときに、さがみはら産業創造センター(SIC)は住所として登記ができるので、使わせていただいたという流れです。
正直なところ出張も多く、あまり行けていないのが実情ですが、入居者インタビューを掲載していただけるなど、メディア支援としての発信はしていただいています。それに、客観的に見るとSICに入居していることで、市の公的なバックアップを受けているという印象は強く伝わると思います。
今後の取り組みについて教えてください
私は、サウナだけに囚われなくてもいいと思っています。真ん中にあるビジョンは、自分らしくいられる居場所や、仲間と分かち合える場と時間をつくること。その中でサウナがうまくマッチしたし、自分も好きだった、ということなんです。マーケットのアップトレンドやサイズを考えたときに、サウナ一本勝負では市場がそこまで大きいわけではない。そう考えて、いまは3つの事業を進めています。
1つ目がサウナの製造販売そのもの。2つ目が外構・エクステリア事業です。これはサウナと紐づいていて、サウナをやるとなると、ウッドデッキやプライバシーのための目隠しフェンス、水風呂といった環境をセットで提案する必要があるんですよね。サウナがない場合でも、外構だけでご提案することもあります。宿泊施設のご依頼が多いので、規模もかなり大きくなります。
3つ目が、自社での宿泊業です。まず熱海でサウナ付きの貸別荘を立ち上げ、次は山中湖でも物件を見つけたので、そこでもやろうと考えています。
目的の1つは、営業時の説得力です。宿泊施設のオーナーさんにサウナのご提案をしてきたので、自社でやっていれば、サウナを入れる前と後でどんな変化があるのか、どんな優位点があるのかを、自前のデータを見せながら示すことができる。当然ショールームにもなります。
そして、もう1つが許認可のナレッジです。サウナを営業として行う場合、消防、保健所、建築指導と、3つほどの行政窓口と交渉しなければならず、行政によって微妙に対応も違って煩雑です。その辺りのナレッジが弊社にも溜まってきたので、サウナ付きの宿泊業をやりたい方への立ち上げ支援ができると考えています。
入り口の立ち上げ支援から、工事の請負も自社でできるので工事も行い、宿泊業の運営も行う。何年か運用したら売却して、またそのお金で新しいものをやる。いま宅建業の許可を取ろうとしているので、最後は仲介として出口の売却まで持っていく。収益不動産としての宿泊業を、入り口から出口まで支援できるところまで広げていきたい、というのがいまの構想です。
最後に、これから起業する方へのメッセージをお願いします!
「事業の選び方」についてお伝えすると、まず大事なのは、スモールスタートでニッチトップを狙うことだと思います。
事業サイドで言うと、私達もニッチなところをやっていますが、起業するとなれば当然、弱者の戦略で戦うことになります。お金もそんなにないし、人もそんなにいない。だから大事なのは、スモールスタートでニッチトップを取ることだと思います。いきなり大きな資本や人はないと思うので、まずは踏み出してみる。やるなら、大手がいっぱいいるところではなく、抜きん出られる商品やサービスで。
そのうえで、いろいろな事業をやってきて最も重要だと思ったのは、そこにマーケットがあるかどうか、そしてアップトレンドであるかどうかです。
アップトレンドがいい理由は、単純に欲しいと思っている人が多いから、という当たり前の理由もありますが、それだけではありません。話題になっているもの、人気のものはPRで取り上げられやすい。いまで言えばAIなどがそうですよね。そのほうが、いろいろな支援やサポートを得られるという意味でも戦い方として有利です。
行政のサポートも同じで、国として伸ばしたい領域には、補助金や助成金が手厚くなります。たとえば人材開発支援助成金を使ってAI研修を導入した例では、企業側の負担が2割強で済むケースもありました。本来100万円かかるものが、それだけの負担で導入できるとなれば、営業としても話が進みやすい。マーケットが大きくアップトレンドであることは、行政のサポートも受けられて、PRでも取り上げてもらえて、メリットしかないと思っています。
私も最初はそんなふうには思っていなくて、どちらかというと「好きなことを仕事にしていこう」というタイプでした。でも、いろいろなことを経てそう思うようになりました。好きなことだけで進めると、正直、痛い目に遭います。昔の自分に言ってあげたいことなので、これから起業される方にもお伝えしたいですね。
企業情報
株式会社Vanwaves
【事業内容】
ホームサウナの製造・販売、オーダーメイドサウナの設計・施工、外構・リノベーション、宿泊事業、不動産事業